バーチャルオフィスの申込みフォームに「企業の登記住所として使い、郵便物も受け取ってほしい」という依頼が届く。私設私書箱の店舗窓口には、郵便物の受取先を作りたい個人が運転免許証を身分証明書として持って来店する。どちらの受付でも、運営者は犯罪収益移転防止法(犯収法)に沿って顧客を確認し、記録を残して犯罪収益の移転を防止する立場にあります。
確認する事項は経済産業省の事業者向けQ&Aに整理されていますが、2027年4月1日には施行規則の改正で、対面ではICチップの読み取りが原則になり、非対面で使える方法も絞られます。経済産業省と警察庁の資料、改正後の条文に基づき、契約受付で確認する事項と方法、改正への備えをまとめます。
結論:3つの要件を満たせば名称を問わず対象になる
私設私書箱、バーチャルオフィス、レンタルオフィス、電話秘書代行など名称を問わず、顧客が郵便物の受取場所として自社の住所を使うことを許諾し、顧客宛ての郵便物を代わりに受け取り、顧客に引き渡す事業者は、犯収法の特定事業者「郵便物受取サービス業者」に当たります。開業に許可や届出は要りませんが、5つの義務がかかります[経済産業省]。義務は取引時確認、確認記録の作成・保存、取引記録の作成・保存、疑わしい取引の届出、取引時確認等を的確に行うための措置で、2つの記録は7年間保存します[経済産業省]。
取引時確認は郵便物受取サービス契約の締結時に行い、事情で遅れる場合も、遅くとも郵便物を引き渡すまでに終えます[経済産業省]。2027年4月1日からは、運転免許証やマイナンバーカードなどICチップ付きの写真付き本人確認書類を対面で使う場合、ICチップを読み取って画面に表示し、券面と照合する方法になります[警察庁]。郵便物受取サービスの契約で、非対面で書類の画像やコピーを送ってもらう方法は、住民基本台帳法の適用を受けない人と国外転出者に限られます[e-Gov法令検索]。
郵便物受取サービス業者に当たるか
経済産業省のQ&Aは、次の3つをすべて満たすサービスを提供する事業者を郵便物受取サービス業者としています[経済産業省]。
- 自己の居所や会社の事務所の所在地を、顧客が郵便物の受取場所として利用することを許諾している
- 顧客に代わって、顧客宛ての郵便物を受け取っている
- 受け取った郵便物を顧客に引き渡している
経済産業省のガイダンスは、バーチャルオフィスが付随サービスとして契約者宛ての郵便物を受け取る場合や、「住所貸し」で法人登記ができるサービスを該当する例に挙げています。住所貸しは、利用者宛ての郵便物の受取場所となり、引き渡すことが当然に想定されるためです。判断に迷うケースは経済産業省に問い合わせるよう案内されています[経済産業省]。バーチャルオフィスでも、規制の対象かどうかは3つの要件で判断します。
関連する業種では、電話受付代行業者や電話転送サービス事業者が別の特定事業者として定められています[警察庁]。
5つの義務と記録の保存期間
警察庁の「犯罪収益移転防止法の概要」は、郵便物受取サービスが詐欺などの犯罪収益の送付先として悪用されている実態があり、マネーロンダリング(資金洗浄)の手段になり得ると指摘しています[警察庁]。義務の一覧は以下のとおりです[経済産業省]。
| 義務 | 主な内容 | 保存期間 |
|---|---|---|
| 取引時確認 | 契約締結時に本人特定事項、取引を行う目的、職業・事業内容、実質的支配者を確認 | ― |
| 確認記録の作成・保存 | 確認の記録を作成し、本人確認書類の写しの提出を受けた場合は添付 | 契約終了日から7年間 |
| 取引記録の作成・保存 | 現金を内容とする郵便物を取り扱った場合に作成(1万円以下を除く) | 取引日から7年間 |
| 疑わしい取引の届出 | 犯罪収益の疑いがあれば経済産業大臣へ届け出る | ― |
| 的確に行うための措置 | 確認事項を最新に保つ措置。教育訓練や規程の作成などは努力義務 | ― |
確認記録には、確認事項のほか、確認の方法、本人確認書類の名称・記号番号、提示を受けた日付と時刻、確認を行った者などを記録します。マイナンバーカードの場合は、個人番号ではなく発行者や有効期間などで書類を特定する点に留意します[警察庁]。経済産業省は確認記録と取引記録の参考様式を公開しています[経済産業省]。
疑わしい取引の届出は、財産が犯罪収益である疑いや、顧客が事実の仮装・隠匿行為を行っている疑いがある場合に行い、契約に至らない申込みも対象です。届け出ることや届け出たことを顧客に漏らしてはいけません[経済産業省]。
契約時に確認する事項(個人・法人)
上記の取引時確認では、顧客が個人なら本人特定事項(氏名・住居・生年月日)、取引を行う目的、職業を確認します。法人なら、名称と本店等の所在地、取引を行う目的、事業内容、実質的支配者を確認し、実際に契約手続きを行う代表者等(取引担当者)の本人特定事項と、委任状等による取引権限も確かめます[経済産業省]。
取引を行う目的とは、自宅で受け取ればよい郵便物を私設私書箱で受け取る理由です。単に「郵便物の受取」では理由にならず、Q&Aはセキュリティー対策やプライバシー保護、出張や海外居住時の連絡拠点などの類型を挙げています。申込書や規約で目的・職業・事業内容が確認できれば、改めて聞く必要はありません[経済産業省]。
実質的支配者は、株式会社なら議決権の4分の1を超える議決権を直接または間接に持つ自然人などです。代表者等から申告を受け、その本人特定事項と法人との関係、確認の方法を記録します。なりすましの疑いがある取引や外国PEPsとの取引などのハイリスク取引では、別の本人確認書類による追加の確認が必要です[経済産業省]。確認事項の考え方は取引時確認と本人確認の違いでも解説しています。
現行の確認方法(2026年10月時点)
対面では、運転免許証、マイナンバーカード、在留カード、旅券など写真付きの本人確認書類は原本の提示で確認できます。写真のない書類は、もう1種類の本人確認書類や補完書類(公共料金の領収証書など)の提示を受けるか、取引関係文書を書留郵便等で転送不要郵便物等として住居に送る方法などと組み合わせます[経済産業省]。
非対面(メール、インターネット、郵送)では、次の方法などがあります[経済産業省]。
- 書類の原本の送付、ICチップ情報の送信、または事業者のソフトウェアで撮影した書類画像の送信を受け、転送不要郵便で取引関係文書を送る
- 容貌の画像と、写真付き書類の画像またはICチップ情報の送信を受ける(オンライン本人確認、eKYC)
- 本人確認書類2枚の写しなどの送付を受け、転送不要郵便で取引関係文書を送る
- 本人限定受取郵便等を送り、受け取りの際に写真付きの本人確認書類の提示等を受ける
法人は、6か月以内に発行された登記事項証明書や印鑑登録証明書で確認し、定款は事業内容の確認には使えますが本人確認書類にはなりません。登記情報提供サービスや法人番号公表サイトを使う方法もあります。非対面では書類の写しの送付も受けられますが、原則として本店等への転送不要郵便が加わります[経済産業省]。
2027年4月の改正で変わること
2026年3月6日付の施行規則の改正命令は、2027年4月1日に施行され、写真のない書類2点の提示などの方法は削除されます[警察庁]。個人の顧客に使う主な方法は次のように変わります。記号は改正後の施行規則第6条第1項第1号です[e-Gov法令検索]。
| 場面 | 現行 | 2027年4月1日以降 |
|---|---|---|
| 対面・ICチップ付き写真付き書類 | 原本の提示 | 提示を受け、ICチップを読み取って画面に表示し券面と照合(イ) |
| 対面・ICチップのない写真付き書類 | 原本の提示 | 提示に加えて転送不要郵便を送付(ロ) |
| 対面・写真のない書類 | 他の書類の提示などと組み合わせ | 2点提示などの方法は削除。住民票の写しなどは提示と転送不要郵便(ロ) |
| 非対面・オンライン本人確認 | 容貌の画像と、書類の画像またはICチップ情報 | 書類の画像を使う方法はなくなり、容貌の画像とICチップ情報(ハ)が残る |
| 非対面・書類と転送不要郵便 | 原本・画像・写しの送付などと組み合わせ | 住民票の写しなどの送付かICチップ情報の送信(ホ)を除き、国外転出者などに限る(ワ・カ) |
本人限定受取郵便を使う方法(チ)は、郵便事業者がICチップ付きの書類を読み取るなどの措置がとられたものに限られます[e-Gov法令検索]。日本郵便は、2027年4月1日から特定事項伝達型でICチップの情報が本人確認書類と一致することを確認した上で本人確認を行うと公表しています[日本郵便]。法人の本人確認書類の写しの送付で足りるのは、外国に本店等がある法人に限られます[e-Gov法令検索]。
警察庁Q&Aは、ICチップから少なくとも氏名・住居・生年月日・写真を読み取り(No.16)、券面との照合も求めています(No.12)。民間企業のアプリも利用可能で(No.20)、法人の代表者等の確認でも読み取りが必要です(No.35)。施行日以降に行う取引時確認は新規則の方法によりますが、施行日前に書類の提示が済んでいれば取引関係文書の送付だけを施行後に行って完了でき(No.2)、施行前に確認済みの顧客はやり直し不要です(No.1)[警察庁]。郵送を伴う方法は転送不要郵便による本人確認と犯収法で整理しています。
運営者が今から準備すること
- 契約受付の手順書の整備:対面・非対面ごとに採る確認方法を決めます。法令の本人確認書類すべてに対応する必要はありません(警察庁Q&A No.4)[警察庁]。
- 受け付ける書類:ICチップ付きの写真付き書類を中心にし、それ以外の書類で来店した顧客への案内を決めます。
- 読み取り装置:受付で使う端末を導入します。事業者が用意した装置に限る扱いは認められ(No.15)、不具合時は合理的な期間内に読み取って完了させられます(No.18)。住所変更でICチップが旧住所のままなら、券面の旧住所との一致を確かめ、現住所を券面で確認して記録します(No.13)[警察庁]。
- 確認記録の様式:記録事項は改正後も変わりませんが(No.39)、読み取り画面の印刷は本人確認書類の写しに当たりません(No.40)[警察庁]。
- 疑わしい取引の判断:経済産業省のガイダンスは、不正な申込みの兆候として、問い合わせ段階で本人確認書類の要否をしきりに聞く、契約後に郵便物が1通も届かないといった例を挙げ、非対面の契約はなりすましのリスクが高いとしています。法人顧客は即日契約とせず登記事項証明書の内容を慎重に審査する例も紹介されています[経済産業省]。
経済産業省は2026年5月に、郵便物受取サービス業のマネー・ローンダリング等の対策に関するガイドラインの制定を案内しています[経済産業省]。
経済産業省は報告徴収や立入検査を行い、違反があれば是正命令を出すことができ、報告の拒否や命令違反には罰則があります[経済産業省]。実際に、取引時確認や確認記録の作成を実施していなかった郵便物受取サービス業者に、是正のための措置を命じた事例が公表されています。
契約受付でICチップの読み取りを始めるには
マイナドライブIDは、三井住友カードの決済端末stera(stera terminal standard・stera terminal unit・stera terminal mobile)と、NFCに対応したAndroid端末(業務用のハンディ端末やスマートフォン)で動く本人確認の業務アプリで、契約受付カウンターに来店した顧客の運転免許証・マイナンバーカードのICチップを読み取り、画面で券面と照合する手段になります。カードはお客様がかざし、暗証番号もお客様自身が入力します(stera端末はお客様側の画面のタッチパネル、Android端末は端末画面のテンキー)。スタッフは暗証番号を聞かず、控えもしません。読み取れるのは、マイナ免許証(4桁の暗証番号で免許情報と顔写真)、従来のIC運転免許証(暗証番号1で本籍を除く記載事項、暗証番号2も入力すると顔写真)、マイナンバーカード(4桁の暗証番号で氏名・住所・生年月日・性別の4情報、券面の14桁の番号で顔写真も。個人番号は読み取りません)です。顔写真は端末画面に表示され、担当者が本人の顔と見比べられます。
このアプリはデータ最小化を前提に、暗証番号の値、ICチップの生データ、標準運用での顔写真画像を基幹システムへ送らず、合意した項目だけをHTTPS POSTで連携できます(認証はmTLS・OAuth2・HMAC署名から選択)。ICチップの情報を外部へ送らなくても端末画面での照合で確認は完結し、警察庁Q&A(No.41)の、読み取ったICチップ情報をいずれかへ送信する必要はないという回答とも整合します[警察庁]。在留カード・特別永住者証明書は券面の12桁の番号を入力して読み取り、旅券には対応していません。マイナンバーカードは、4桁の暗証番号では氏名・住所・生年月日・性別の4情報、券面の14桁の番号を入力すると顔写真も読み取れます。犯罪収益移転防止法の取引時確認に使う場合、読み取る項目(氏名・住居・生年月日・写真)と券面との照合を自社の確認手順に組み込めるかは、法務担当・顧問の弁護士に確認してください。
郵便物受取サービスの契約受付の流れ(対面・非対面)と、現在の本人確認書類・確認方法・確認記録の項目を整理する。
契約受付で読み取りたい項目と、確認記録への登録方法を決める。
使う端末(stera端末、またはNFCに対応したAndroid端末)と既存システムの連携可否を確認する。
マイナドライブIDのデモ・連携相談をこちらの申し込みフォームから申し込む。
まとめ:要件、義務、改正後の方法の順に確かめる
まず3つの要件で自社のサービスが郵便物受取サービスに当たるかを確かめ、当たる場合は契約時の取引時確認と2つの記録、疑わしい取引の判断を受付手順に組み込みます。私設私書箱やバーチャルオフィス契約時の確認は、2027年4月1日から対面ではICチップの読み取りと券面の照合が原則になり、非対面の方法も絞られます。現在の受付がどの方法に当たるかを洗い出し、施行日をまたぐ申込みの扱いまで決めておくと、改正後の受付に落ち着いて移れます。
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