郵送で口座開設やカードの申込みを受け付ける銀行などの金融機関では、届いた本人確認書類を確かめたあと、預金通帳などを「転送不要」の書留で書類に記載された住所へ送り、届いたことで確認を終える流れが組まれていることがあります。2027年4月1日に犯罪収益移転防止法(犯収法)の施行規則が改正されると、この組み合わせのどれが使え、どれが使えなくなるのかを、事務やコンプライアンスの担当者は確かめる必要があります。
改正後も転送不要郵便を利用する確認方法は残りますが、組み合わせる書類や使える人の範囲が大きく変わり、号の記号も新たに付け替えられます。警察庁の改正命令の案文・Q&Aと、e-Gov法令検索上の改正後の条文を照らし合わせて整理します。
結論:転送不要郵便は残るが、組み合わせが絞られる
犯収法の取引時確認には、本人確認書類の提示や送付と組み合わせて、書留郵便等を用いて預金通帳などの取引関係文書を転送不要郵便物等として顧客の住居に送る方法があります[e-Gov法令検索]。転送不要と記載された郵便物は、転居届を出していても転送されず差出人に戻るため[日本郵便]、申告された住居に本人が住んでいることを確かめる手法になります。
2027年4月1日に施行される改正後の施行規則では、転送不要郵便物等を使う方法は第6条第1項第1号のロ・ホ・ヘ・ワ・カの5つです[e-Gov法令検索]。一方、ICチップ付きの写真付き本人確認書類を窓口で出せる顧客はICチップを読み取る方法(イ)で確認でき、本人確認書類のコピー(写し)や画像を送ってもらう方法は、給与振込口座などの一定の取引(ヘ)を除き、住民基本台帳法の適用を受けない人と国外転出者に限られます。
実務では、郵送で受け付けている手続きと使っている号を洗い出し、来店時のICチップ読み取りや公的個人認証サービス(JPKI)などへの切り替えを進めるか検討します。条文の当てはめは、法務担当・顧問弁護士に確認してください。
転送不要郵便とは
転送不要郵便は、表面に「転送不要」と書いて差し出す郵便物です。日本郵便のFAQは、「転送不要」と記載された郵便物等は差出人の「この住所に住んでいない場合は返還してほしい」という意思表示になるため、転居届を提出していても転送されないと説明しています[日本郵便]。
通常は、転居届を出すと届出日から1年間、旧住所あての郵便物等が新住所へ無料で転送されます[日本郵便]。転送不要の記載は、この転送を止めて差出人へ戻してもらうための指定です。
他のサービスとの組み合わせについて、日本郵便は特定記録も転送不要にでき、その場合は表面の見やすいところに「転送不要」の文字を明瞭に記載するよう案内しています[日本郵便]。ただし犯収法の施行規則は、転送をしない扱いに加えて、書留郵便や、引受けと配達を記録する郵便などで送ることを求めています。どの郵便サービスが要件に当たるかは、所管行政庁のQ&Aや社内規程で確認してください。
犯収法で転送不要郵便を使う確認方法
改正後の施行規則第6条第1項第1号のうち、取引関係文書を郵便で送る方法は以下の表のとおりです。比較のため郵送以外の対面のイも並べ、号は2027年4月1日施行の条文に合わせています[e-Gov法令検索]。
| 方法(改正後の号) | 顧客から受け取るもの | 事業者が送るもの | 現行からの変化 |
|---|---|---|---|
| イ(対面) | ICチップ付きの写真付き本人確認書類の提示と、ICチップ情報の読み取り | なし | ICチップを読み取って画面に表示する |
| ロ(1)(対面) | ICチップのない写真付き本人確認書類、または住民票の写し・印鑑登録証明書などの提示 | 取引関係文書(書留郵便等・転送不要) | ICチップのない写真付き書類は、提示だけでなく郵送も必要になる |
| ロ(2)(対面) | 写真のないICチップ付き書類の提示と、ICチップ情報の読み取り | 同上 | ICチップの読み取りを追加 |
| ホ(非対面) | 住民票の写しなどの送付、またはICチップ情報の送信 | 同上 | 送付は住民票の写しなどに絞られ、画像の送信はなくなる |
| ヘ(非対面) | 給与振込口座の開設などに限り、本人確認書類の写し | 同上 | 限定した取引で継続する |
| ワ・カ(非対面) | 本人確認書類の送付や画像の送信、または写し2通など | 同上 | 住民基本台帳法の適用を受けない人と国外転出者に限られる |
| チ(本人限定受取郵便) | なし(郵便事業者が確認して伝える) | 取引関係文書(本人限定受取郵便) | 郵便事業者による確認にICチップの読み取りが加わる |
ロ(1)の「ICチップのない写真付き本人確認書類」には身体障害者手帳、運転経歴証明書、乗員手帳などが、ロ(2)の「ICチップが組み込まれ写真が貼られていない書類」には16歳未満の在留カード・特別永住者証明書や1歳未満のマイナンバーカードなどが当たると、警察庁Q&A(No.6、No.7)は例を挙げています[警察庁]。住民票の写しや印鑑登録証明書は施行規則第7条第1号ニに掲げる書類で、改正後のホで送付を受けられるのもこの区分です。ヘは、法人の被用者の給与振込口座の開設や、個人番号の提供を受けている有価証券の取引などに限った方法です[e-Gov法令検索]。
転送不要にする目的は住居の確認
犯収法で確かめる本人特定事項は、個人の場合は氏名・住居・生年月日です[警察庁]。写真のない書類や郵送された書類だけでは、その住居に本人が今住んでいるかを確かめにくいため、住居に宛てて転送されない郵便で取引関係文書を送り、届くことで確認を補完します。警察庁の「犯罪収益移転防止法の概要」も、顔写真のない本人確認書類では転送不要郵便で取引関係文書を送るなどの二次的な確認措置が求められると説明しています[警察庁]。転居届による転送が止まるので、旧住所のままの書類や架空の住所を使った不正な申込みに気づくきっかけにもなります。
この方法のメリットは、スマホやネット環境を持たない顧客でも、書類と郵便だけで手続きを進められることです。一方で、書留郵便等の料金というコスト、到着までの日数、返送された場合の再送や連絡の手間がかかり、契約まで時間が空く点がデメリットです。郵便で確かめられるのは住居で、書類の偽造は書類の確認(改正後はICチップの読み取りなど)で別に確かめます。
取引関係文書の送付を行う場合は、その日付を確認記録に残します[警察庁]。施行規則第6条第4項は、この5つの方法について、郵送に代えて事業者の役職員が住居に赴いて取引関係文書を手渡す方法も定めており[e-Gov法令検索]、訪問で確認する場合の手順は訪問先の本人確認とICチップ読み取りで紹介しています。
2027年4月の改正で変わること
2027年4月1日に施行される今回の改正は、2025年6月に公布された改正命令と、2026年3月6日に公布された令和8年共同命令第1号などが重なったものです[e-Gov法令検索]。2026年の改正では号の細分が繰り上げられており[警察庁]、同じ方法でも解説記事や社内規程によって記号が異なることがあります。社内のマニュアルが号を引用している場合は、改正後の条文で確かめてください。
対面では、ICチップ付きの写真付き本人確認書類について、提示を受けるとともにICチップの情報を装置で読み取って画面に表示する方法(イ)に変わります[警察庁]。警察庁Q&A(No.12)は、読み取ったICチップ情報と券面情報の照合まで行わなければならないと回答しています[警察庁]。運転免許証やマイナンバーカードを持参した顧客は、郵送が要りません。
郵送を伴うロは、ICチップのない写真付き書類か住民票の写しなどを提示する(1)と、写真のないICチップ付き書類を読み取る(2)に分けられ、現行のハ(写真のない書類2点の提示など)とニ(写真のない書類の提示と別の書類の送付)は廃止されます[警察庁]。資格確認書や母子健康手帳などICチップのない書類について、警察庁Q&A(No.34)は、改正後のヘの方法で用いることや、住居の記載がある書類として第6条第2項の確認に使うことはできると回答しています[警察庁]。資格確認書の提示と転送不要郵便を組み合わせて受け付けている手続きは、見直しが必要です。
非対面では、事業者のソフトウェアで撮影した容貌と写真付き本人確認書類の画像を送ってもらう現行のホ[警察庁]、画像送信型のオンライン本人確認(eKYC)が改正後の条文からなくなり、容貌の画像とICチップ情報を送る方法(改正後のハ)などが残ります[e-Gov法令検索]。郵送と組み合わせる現行の方法は、本人確認書類の原本の送付、ICチップ情報の送信、書類の画像の送信のいずれかを転送不要郵便と組み合わせますが[警察庁]、改正後は住民票の写しなどの送付かICチップ情報の送信に絞られます(ホ)。運転免許証などの原本の送付や画像の送信と組み合わせる方法(ワ)と、コピー2通などを送ってもらう方法(カ)は、住民基本台帳法の適用を受けない人と国外転出者に限られます。
施行日をまたぐ受付について、警察庁Q&A(No.2)は、施行日前に旧規則に基づく本人確認書類の提示が済んでいれば、手続きの一部(取引関係文書の送付)だけを施行後に行って取引時確認を完了できると回答しています。施行前に実施した取引時確認による「済み確認」も可能で、施行後にやり直す必要はないとされています(No.1)[警察庁]。
本人限定受取郵便(特定事項伝達型)との違い
本人限定受取郵便は、郵便物に記載された名あて人または差出人が指定した代人一人に限って郵便物を渡すサービスで、特定事項伝達型は代人を指定できません[日本郵便]。犯収法では、郵便事業者が特定事業者に代わって住居と本人確認書類を確認し、所定の事項を伝える措置がとられた郵便で取引関係文書を送る方法が規定されており、改正後はチの方法です[e-Gov法令検索]。
違いは、誰が本人確認書類を確かめるかです。転送不要郵便を使う方法では書類の確認は事業者自身が行い、郵便は住居の確認に使います。特定事項伝達型という方式では、書類の確認と結果の伝達まで郵便事業者が担います。日本郵便は、本人確認書類の名称・記号番号、名あて人の生年月日、本人確認を行った者の氏名、提示を受けた日時を差出人が登録制のホームページからダウンロードできると案内しています(2026年10月時点)[日本郵便]。
日本郵便は2027年4月1日から、特定事項伝達型と基本型で受け取り時に提示する本人確認書類を、運転免許証、マイナンバーカード、在留カード、特別永住者証明書のICチップ付き・写真付きの4種類のうち1点に限り、パスポートなどは対象外にします。特定事項伝達型ではICチップに記録された情報が本人確認書類と一致することを確かめてから本人確認を行い、運転免許証のICチップを読み取る際は4桁の暗証番号2組の入力が必要です。スマートフォンに搭載されたマイナンバーカードの情報の送信を受ける方法も可能になり、事前にアプリのインストールなどの設定が必要とされています[日本郵便]。確認に使う機器や手順は公表資料にありません。差出人側の準備の詳細は本人限定受取郵便の特定事項伝達型の変更点で整理しています。
郵送の手続きを見直すポイント
郵送で受け付けている手続きを棚卸しする
まず、口座開設やカードの申込みなど郵送で受け付けている手続きごとに、受け付けている本人確認書類、顧客から送ってもらうもの(原本・写し・画像)、事業者が送るもの(転送不要郵便・本人限定受取郵便)、該当する号を書き出します。本人確認方法のいずれを採用するかは特定事業者に委ねられ、法令で定める本人確認書類のすべてに対応する必要はないと、警察庁Q&A(No.4)は回答しています[警察庁]。改正後に使えなくなる組み合わせがある手続きから、代わりの確認方法を決めます。
来店時のICチップ読み取りに切り替える
来店できる顧客をICチップ付きの本人確認書類を読み取る方法(イ)へ案内すれば、郵送の待ち時間や返送への対応がなくなります。読み取る項目は少なくとも氏名・住居・生年月日・写真(旅券は氏名・生年月日・写真)で、読み取った情報と券面の照合も必要です[警察庁]。店頭の手順は店頭でICチップを読み取る基本の手順、改正の全体像は犯収法改正で2027年4月から対面の本人確認はどう変わるかを参照してください。
オンラインで完結する方法を用意する
来店が難しい顧客には、マイナンバーカードの署名用電子証明書を活用する公的個人認証(改正後のヌ)や、スマートフォンに搭載されたマイナンバーカードの情報を送ってもらう方法(改正後のト)が、郵送を使わない選択肢になります[e-Gov法令検索]。公的個人認証は対面で用いることも可能とされています(警察庁Q&A No.26)[警察庁]。郵送を残す場合も、ICチップ情報の送信と転送不要郵便を組み合わせるホは、事業者が提供するソフトウェアで顧客にICチップを読み取らせる仕組みが前提で、アプリやWebの開発・改修の期間を見込む必要があります。
顧客向けの案内と移行期の扱いを決める
申込書やWebの受付書類の一覧を改正後の内容に改め、転送不要郵便が届かずに返送された場合の扱い(再送、別の確認方法への切り替え、取引の保留)を決めておきます。施行日をまたぐ申込みは、提示や送付を受けた日と取引関係文書を送った日を確認記録で追えるようにしておくと、移行期の業務負担を抑えられます。コピーの保管を伴う運用が減れば、個人情報の管理負担も軽くなります。
来店時のICチップ読み取りへ切り替えるには
マイナドライブIDは、三井住友カードの決済端末stera(stera terminal standard・stera terminal unit・stera terminal mobile)と、NFCに対応したAndroid端末(業務用のハンディ端末やスマートフォン)で動く本人確認の業務アプリで、郵送で受け付けていた手続きを来店時の対面確認に切り替える場合に、店頭のstera端末や持ち出せるAndroid端末でICチップを読み取り、画面で照合する手段になります。お客様がカードをかざし、暗証番号はお客様自身が入力します(stera端末はお客様側の画面のタッチパネル、Android端末は端末画面のテンキー)。スタッフは暗証番号を聞かず、控えもしません。読み取れるのは、マイナ免許証(4桁の暗証番号で免許情報と顔写真)、従来のIC運転免許証(暗証番号1で本籍を除く記載事項、暗証番号2も入力すると顔写真)、マイナンバーカード(4桁の暗証番号で氏名・住所・生年月日・性別の4情報、券面の14桁の番号で顔写真も。個人番号は読み取りません)です。顔写真は端末画面に表示され、担当者が本人の顔と見比べられます。
このアプリはデータ最小化を前提にしており、暗証番号の値、ICチップの生データ、標準運用での顔写真画像は基幹システムへ送らず、合意した項目だけをHTTPS POSTで基幹システムへ連携できます(認証はmTLS・OAuth2・HMAC署名から選択)。読み取ったICチップの情報を外部へ送信しなくても端末画面での照合で確認は完結でき、警察庁Q&A(No.41)の「読み取ったICチップ情報をいずれかへ送信する必要はありません」という回答とも整合します[警察庁]。在留カード・特別永住者証明書は券面の12桁の番号を入力して読み取り、旅券には対応していません。マイナンバーカードは、4桁の暗証番号では氏名・住所・生年月日・性別の4情報、券面の14桁の番号を入力すると顔写真も読み取れます。犯罪収益移転防止法の取引時確認に使う場合、読み取る項目(氏名・住居・生年月日・写真)と券面との照合を自社の確認手順に組み込めるかは、法務担当・顧問弁護士に確認してください。導入相談までの手順は次の4つです。
郵送で受け付けている手続きと、それぞれの確認方法(書類の送付・転送不要郵便・本人限定受取郵便)を整理する。
来店時に読み取りたい項目と、確認記録への反映方法を決める。
使う端末(stera端末、またはNFCに対応したAndroid端末)と既存システムの連携可否を確認する。
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まとめ:郵送の手続きは号と書類の組み合わせから見直す
転送不要郵便は、住居に転送されずに届くかどうかで住居を確かめる仕組みとして、2027年4月以降も犯収法の確認方法に残ります。主に変わるのは、組み合わせる書類と使える人の範囲、そして号の記号です。郵送で受け付けている手続きごとに改正後も同じ組み合わせが使えるかを条文で確かめ、来店時のICチップ読み取りやオンラインで完結する方法への切り替えを、顧客への案内も含めて施行日までに決めておくと、受付の混乱を防ぎ、本人確認業務の効率化にもつながります。
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