2027年4月1日の犯罪収益移転防止法施行規則の法改正により、対面での本人確認は「券面を目視で見るだけ」から「ICチップを読み取り、画面に表示して券面と照らし合わせる」運用へと変わります。金融機関や貴金属の買取店などの特定事業者を中心に(携帯電話事業者も携帯電話不正利用防止法で同じ時期に対面のICチップ読み取りへ移行します)、窓口や店頭で受け付ける担当者と店舗責任者、業務マニュアルを作る方は、どの書類の何をどう読み取り、何と照合し、読めないときにどう振る舞い、確認記録に何を残すのかを、法改正の施行までに残された時間を使って手順として確定しておく必要があります。
本稿では、警察庁が公開している「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の改正に係るQ&A」などの一次情報を中心に、対面でのICチップ読み取りの基本手順と確認記録の設計を整理します。レンタカーなど特定事業者に当たらない店舗が同じ方式を任意に取り入れる場合にも、同じ構造で手順を組めるようにまとめています。
結論:読み取り手順は「読む」「照らす」「残す」の三段階
対面でのICチップ読み取りは、業務上は三つの行為に分解できます。第一に、カードを提示してもらい、事業者が用意した装置でICチップから氏名・住居・生年月日・写真を読み取ること。第二に、読み取った内容を画面に表示し、券面の記載、本人の容貌、申込内容と確実に照らすこと。第三に、取引時確認を実施した日時や本人特定事項などの従来どおりの確認記録を残すことです。
改正後にICチップ付きの本人確認書類でイ方式の本人確認を行うには、カードの提示、ICチップからの読み取り、画面表示と担当者による照合という三段階を踏む必要がある、という整理が法律事務所の実務解説でも示されています(miyake.gr.jp)。読み取りそのものではなく、読み取った内容と券面情報の照合までを完了させることが改正の趣旨であり、「読めたので終わり」とはなりません。
改正の根拠は、2026年3月公布の共同命令による犯罪収益移転防止法施行規則の改正で、施行は2027年4月1日です。警察庁JAFICが公開している「改正に係るQ&A」が、現場運用の設計で参照できる一次資料となります(警察庁)。改正の全体像、対象となる特定事業者、2026年内の準備のタイムラインは犯収法改正で2027年4月から対面の本人確認はどう変わるかで整理しています。
対面と非対面はなぜ同時に見直されるのか
対面の厳格化は、非対面の見直しとセットで理解すると意味がわかりやすくなります。非対面では、本人確認書類の画像と顔画像をオンラインで送信するいわゆるホ方式のeKYCが廃止され、公的個人認証サービス(JPKI)やICチップ情報の読み取りを前提とする方式へ移行します。金融庁も2026年10月9日の注意喚起で、画像送信方式の廃止とICチップ情報の読み取りへの一本化を施行日を待たず進めるよう金融機関等に求めています(fsa.go.jp)。
対面側では、券面の目視確認だけでは偽造を見逃すリスクが残ることから、写真付き・ICチップ付き本人確認書類についてICチップの読み取りと券面との照合が原則として組み込まれます(警察庁)。非対面の画像送信が制限されるため、対面でも書類の真正性を機械的に確かめるという、同じ考え方が両方のチャネルに広がる形になります。
背景には、券面を精巧に偽造した本人確認書類を使ったなりすまし、本人確認書類の画像を含む個人情報の漏えいが相次いで報じられている状況があり、偽造や不正利用への対策として、ICチップ情報と券面情報の照合によって書類の真正性(偽変造の有無)を確かめる仕組みへと重点が移っています。
事前準備:装置、暗証番号の案内、スタッフの役割
手順を組む前に、環境面の整備が必要です。装置については、提示を受ける担当者とICチップ情報を確認する担当者が別でもよく、合理的な期間内のタイムラグは認められるという整理が警察庁Q&A(No.19)で示されています(警察庁)。読み取り装置を事業者側で用意するものに限定する取扱いも差し支えないとされており(No.15)、顧客のスマートフォンに依存しない設計を選ぶかどうかを、業務設計のポイントとして決めておきます。
暗証番号の扱いは書類ごとに異なります。マイナンバーカードは券面事項入力補助用の4桁の暗証番号を使うと氏名・住所・生年月日・性別が読め、顔写真などを読む「照合番号B」は券面の生年月日・有効期限・セキュリティコードを組み合わせた番号です。従来の運転免許証では暗証番号1で記載事項、暗証番号2で本籍と顔写真を読み出せます。日本郵便は2027年4月1日からの本人限定受取郵便の見直しで、本人確認書類をICチップ付き・写真付きの4種類(運転免許証、マイナンバーカード、在留カード、特別永住者証明書)に限定し、特定事項伝達型ではICチップの情報を確認する運用に変えると案内しており、運転免許証のICチップを読み取る際は4桁の暗証番号2組の入力が必要になるとしています(日本郵便)。暗証番号は本人がその場で入力する前提で案内文を整えます。
スタッフの役割分担も明確にします。カードの受け取りと券面の確認、ICチップ読み取り装置の操作、画面表示と券面・容貌の照合、確認記録への入力は、同一人物でも別人でも構いません。ICチップ内の氏名・住所・生年月日・写真をリーダーで読み取り、映像面に表示して照合する流れを、店舗の動線に合わせて誰が担当するかを決めておきます(miyake.gr.jp)。
書類別のICチップ読み取り手順
マイナンバーカード
マイナンバーカード本体のICチップから読む項目は、券面事項入力補助用の4桁の暗証番号で開く氏名・住所・生年月日・性別と、照合番号Bで開く顔写真などに分かれます。デジタル庁が提供する「マイナンバーカード対面確認アプリ」は、マイナンバーカードのICチップを読み取って券面の真正性を確認する機能を持つアプリとして公開されています(services.digital.go.jp)。読み取れる項目や対応OSは公式サイトで最新情報を確認してください(2026-10-11時点)。警察庁Q&Aでは、このアプリや地方公共団体情報システム機構の券面事項表示ソフトウェア、民間アプリが読み取り手段の例として挙げられています(No.22)。
マイナンバー(12桁)を取引時確認で読み取る必要はなく、本人特定事項の確認に用いるのは氏名・住居・生年月日・写真です。マイナンバー自体の取扱いは、別途マイナンバー法の規律に従います。
運転免許証(従来型・マイナ免許証)
従来の運転免許証は、暗証番号1で記載事項、暗証番号2で本籍と顔写真が読み出せます。写真まで含めて確認するには、2組の暗証番号を本人に入力してもらう運用が必要です。マイナ免許証は2025年3月24日から運用が始まり、免許情報をマイナンバーカードのICチップに記録する一方、券面には免許の種類や有効期限、条件が表示されません。そのため免許情報を確認するには、ICチップから読み取る手順が前提になります。
在留カード・特別永住者証明書・旅券
在留カード・特別永住者証明書はICチップから氏名・住居・生年月日・写真を読み取ります。旅券は氏名・生年月日・写真を読み取り、住居は別の方法で確認します。ICチップが読み取れない例外的な場合や、ICチップの一部が「●」で表示される場合の考え方も警察庁Q&Aに示されています(警察庁)。
照合の手順:券面・容貌・申込内容・住所変更
ICチップから読み取った情報は、画面に表示して三つの対象と照らします。第一に本人確認書類の券面、第二に目の前の本人の容貌、第三に申込書やシステムに入力されている申込内容です。ICチップ付きの写真付き本人確認書類については、ICチップを読み取って画面で確認しない限りイ方式としては扱えなくなる、という整理のとおり(miyake.gr.jp)、読み取れたこと自体で確認が完了するわけではなく、券面との照合までを済ませる必要があります(警察庁Q&A No.12)。
住所変更があり、裏面に新住所が記載され、ICチップには旧住所が記録されている場合は、券面に書かれている新住所を本人の住居として確認した上で、ICチップの旧住所と券面に印字されている旧住所の一致を確認します。これにより、ICチップが本物であることと、本人の現住所が新住所であることの両方が担保されます。
ICチップから読み取った項目の一部が「●」などで表示される例外的な場合でも、券面の情報と合理的に一致していると確認できれば、本人確認書類として使うことができます。読み取り装置に不具合があってその場でICチップを読めない場合は、合理的な期間内に別の装置で読み直して完了させる運用が考えられます。署名用電子証明書の確認までは求められていないため、公的個人認証を使わない対面の方式では、電子証明書の有効性確認は不要です。
読めない・一致しないときの対応
読み取り装置の不具合、カードのICチップ破損、暗証番号を本人が思い出せないといったケースはどうしても発生します。装置側の不具合であれば、合理的な期間内に別の装置で読み取り直すか、ICチップのない写真付き本人確認書類の提示を受けて、取引関係書類を転送不要郵便で送付する方法(ロ(1)方式)に切り替えるといった、別の本人確認方法の選択が必要です。顧客がICチップの読み取りを拒否した場合や機器の故障で読み取れない場合は、住民票の写しの提示と取引関係文書の転送不要郵便での送付など、別の本人確認方法に切り替えることになり、単なる書類追加での便宜的な補完は認められないと整理されています(tmi.gr.jp)。
券面情報とICチップ情報が明らかに一致しない場合は、偽変造の疑いがあるものとして取引を止めます。なりすましの疑いがある場合は警察等への通報を検討する運用です。業務マニュアルには「不一致の場合は即時に責任者へエスカレーションし、取引を保留する」という判断ルートを明記しておきます。
確認記録の書き方:従来どおりの記録事項と任意ログ
確認記録そのものは、改正後も記録事項は変わりません。取引時確認を実施した日時、確認を行った顧客の本人特定事項、確認に用いた書類の種類などを、従来どおり確認記録として残します。取引時確認を行った時刻や本人特定事項を確認記録として保存すれば一定の追跡可能性が担保されるため、これら以外に読み取ったICチップ情報や証跡の記録までは求めない、という整理がパブリックコメントへの回答として公開されています(public-comment.e-gov.go.jp)。
ICチップの読み取りそのもののログを事業者側で残すのは、法令上の要件ではなく自主的な取組の位置づけです。IC情報を表示した画面を印刷したものは「本人確認書類の写し」には該当しないため、写しの保管で日時の記録を代替することはできません。本人確認書類の提示を受けた日付や時刻の記録は、従来どおり必要になります。読み取ったICチップ情報を外部へ送信する必要もなく、取引時確認を実施した日時や本人特定事項を確認記録として残せば、追跡可能性の要件は満たせる設計です。
「ICチップ読み取りと確認記録」の実務的な結論としては、記録事項そのものは変えずに、ICチップで照合した事実と確認日時を確実に残すことがポイントです。読み取りログを自主的に残す場合でも、暗証番号の値や顔写真画像をそのまま蓄積するような設計は、個人情報保護の観点からリスクが大きく、必要最小限のメタデータに絞る運用が無難です。
手順書のサンプルと特定事業者以外の店舗の扱い
業務マニュアルに落とし込む際は、次のような4列の表にまとめると担当者が迷いにくくなります。
| 書類 | 入力するもの | ICから読める主な項目 | 券面と照らす項目 |
|---|---|---|---|
| マイナンバーカード | 券面事項入力補助用の4桁の暗証番号/照合番号B | 氏名・住所・生年月日・性別・顔写真等 | 氏名・住所・生年月日・顔写真 |
| 運転免許証(従来型) | 暗証番号1・暗証番号2 | 記載事項・本籍・顔写真 | 氏名・住所・生年月日・顔写真 |
| マイナ免許証 | マイナ免許証用の4桁の暗証番号 | 氏名・住所・生年月日・顔写真・免許の種類・有効期限・条件等 | 氏名・住所・生年月日・顔写真(券面に免許情報の記載なし) |
| 在留カード・特別永住者証明書 | 書類ごとに定められた暗証番号等 | 氏名・住居・生年月日・写真等 | 氏名・住居・生年月日・写真 |
| 旅券 | 書類ごとに定められた入力情報 | 氏名・生年月日・写真 | 氏名・生年月日・写真 |
このうち、法令上のICチップ読み取り義務は犯罪収益移転防止法の特定事業者に対して課せられるものです。レンタカー、自動車販売、各種サービス業など、特定事業者に該当しない店舗が同じ手順を任意で採用する場合は、「法令上の義務ではなく、運用品質を上げるための選択」として位置づけます。偽造された運転免許証による不正な貸渡や契約を未然に防ぐための対策として、券面の目視確認に加えて、ICチップ読み取りを運用に組み込む検討が広がっています。実装の判断は、自社の受付件数、現場の端末環境、既存システムとの連携可否を踏まえて行います。
eKYCの非対面方式が厳格化される流れを受けて、非対面での本人確認が難しくなる取引については、対面の受付へ回帰する動きも出ており、対面側の運用品質を上げることは、特定事業者以外の業種でも実務上の意味があります。決済端末をICチップ読み取りに活用する選択肢もあります。読み取る項目は法令上の要件として氏名・住居・生年月日・写真が中心で、ここに自社の業務で必要な項目(免許の種類、有効期限など)を重ねて設計します。
公的個人認証サービス(JPKI)は、対面でも使える別の確認方法として規則に位置づけられており、電子証明書の有効性を確認することで、より強い真正性を担保できます。対面での現実的な運用設計としては、まず券面事項入力補助の読み取りで本人特定事項を機械的に確認し、より強い確認が必要な取引に限ってJPKIを使うといった段階的な設計が考えられます。
決済端末でICチップ読み取りを始めるには
店頭に新しい専用機器を増やさずに対面本人確認のIC読み取りを始めたい場合、既にある決済端末にICチップ読み取りの機能を搭載したサービスを活用する選択肢があります。マイナドライブIDは、三井住友カードの決済端末stera(stera terminal standard・stera terminal unit・stera terminal mobile)上で動く業務アプリで、お客様がカードを端末にかざし、カスタマーディスプレイのタッチパネルで4桁の暗証番号(PIN)を自分で入力することで、マイナ免許証や従来のIC運転免許証から免許情報(氏名・住所・生年月日・免許の種類・有効期限・条件など、カード種別と入力条件で読み取れる範囲は異なります)を読み取り、顔写真を端末画面に表示してスタッフが本人の容貌と見比べられる仕組みです。暗証番号はお客様本人がタッチパネルで入力するため、スタッフが暗証番号を預かる必要はありません。
このアプリはデータ最小化を前提に設計されており、暗証番号の値、ICチップから取得した生データ、標準運用での顔写真画像は基幹システムへ送らず、合意した項目だけをHTTPS POSTで基幹システムへ連携できます(連携時の認証はmTLS・OAuth2・HMAC署名から選択)。読み取ったICチップ情報を外部へ送信せずに端末画面での照合だけで確認を完結させる使い方もでき、警察庁Q&Aで示されている「読み取ったIC情報をどこかへ送信する必要はない」という整理と整合します。現時点の対応書類は、運転免許証(マイナ免許証・従来のIC運転免許証)、マイナンバーカード(氏名・住所・生年月日・性別の4情報)、在留カード・特別永住者証明書(券面の12桁の番号を入力)で、旅券には対応していません。犯罪収益移転防止法の取引時確認に使う場合、読み取る項目と券面との照合を自社の確認手順に組み込めるかは、法務担当・顧問弁護士に確認してください。
導入相談までの手順は、次の4ステップで整理すると迷いにくくなります。
自社の店頭でどの本人確認書類をどれだけ扱うかと、現在の確認・記録の流れを整理する。
読み取りたい項目と、確認記録への反映方法を決める。
stera端末の設置環境と既存システムの連携可否を確認する。
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関連する社内の情報整理として、免許証のICチップに何が記録されているかは運転免許証のICチップに記録された情報、店舗での確認方法の選択肢は店舗の本人確認方法を比較、読み取り装置の選定は免許証リーダーの選び方、券面側の偽造対策はレンタカー受付で偽造免許証を見抜く手順もあわせて参照してください。改正の施行までに、自社の手続きのどこにICチップ読み取りを組み込むか、確認記録のフォーマットや保管・管理の方法をどう整えるか、読めない例外にどう対応するかを、現場担当者と法務担当の双方で確認しておくことが、落ち着いた移行につながります。
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