2027年4月1日、犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法、以下「犯収法」)の施行規則が改正され、対面での本人確認の原則が「本人確認書類の目視」から「ICチップ情報の読み取りと券面との照合」へと切り替わります。対面取引では、ICチップ付き・顔写真付きの本人確認書類について、券面の目視確認だけでなく、読み取り装置でICチップ情報を読み取って映像面に表示し、券面と照合することが原則として必要になります(警察庁)。

この記事は、店頭で対面の取引時確認を行う特定事業者(金融機関の窓口・代理店、保険代理店、リース会社、不動産会社、貴金属や高額品の買取店、郵便物受取サービス事業者、士業など)の店舗責任者や業務企画・コンプライアンス担当者に向けて、改正の概要、影響の範囲、現場で変わる作業、2026年内に着手しておきたい準備を一次情報ベースで整理するものです。犯収法改正で2027年に変わる本人確認のルールを、対面を軸に実務目線で読み解いていきます。

結論:2027年4月から対面はIC読み取りが原則、2026年内に体制整備を

まず結論を先に示します。2027年4月1日以降、ICチップが組み込まれた写真付き本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証、在留カード、特別永住者証明書、旅券など)を使って対面で取引時確認を行う場合、券面の提示を受けるだけでは足りず、読み取り装置でICチップ情報を読み取って映像面に表示し、券面情報と照合することが求められます。対象は犯収法の特定事業者です。

非対面については、金融庁が2026年10月9日に注意喚起を出し、本人確認書類の画像を使った方法の廃止とICチップ情報の読み取りへの一本化を前倒しで進めるよう求めています(fsa.go.jp)。対面には直接の言及こそありませんが、施行日直前の駆け込みを避けるためにも、2026年内に装置の選定・業務手順の見直し・記録様式の整備・現場研修の計画を固めるのが現実的といえます。金融庁は施行日を待たない早期の移行を求めており、対面の準備にも早めに着手する価値があります。

改正の概要と根拠:命令と施行規則の位置づけ

今回の改正の正式名称は「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令」です。これは法律本体の改正ではなく、施行規則(以下、犯収法施行規則)レベルの改正(令和8年共同命令第1号、2026年3月公布)です。なりすまし耐性の低い本人確認方式を廃止し、ICチップ情報や公的個人認証を用いる方式に集約してなりすましを防止することが目的で、対象は本人確認の方法そのものに限られます(警察庁)。

警察庁は、改正命令案のパブリックコメントへの回答として「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の改正に係るQ&A」を公表し、対面でのICチップ読み取りの趣旨や読み取る項目、記録の扱いなど、実務上の具体的な取り扱いを整理しています(警察庁)。本記事の対面に関する記述は、このQ&Aを主な根拠にしています。

対面の本人確認はどう変わるか:新旧の方式比較

書類の種別ごとに変わる対面の確認方法。写真付き・IC付き、提示+IC読み取り、映像面で券面と照合。写真付き・ICなし、提示+取引関係文書の送付、転送不要郵便等。公的個人認証(JPKI)、対面でも利用可能、署名用電子証明書の確認は不要
対象書類はマイナンバーカード・運転免許証・在留カード・特別永住者証明書・旅券など。読み取る項目は氏名・住居・生年月日・写真(警察庁Q&A No.5・11・12)。

改正後の対面確認は、本人確認書類を「顔写真の有無」と「ICチップの有無」で分類し、それぞれ必要な手続きを定める構造になります(警察庁)。

書類の種別改正前(〜2027年3月)改正後(2027年4月〜)
写真付き・IC付き(マイナンバーカード、運転免許証、在留カード、特別永住者証明書、旅券など)券面の目視提示で可(イ)提示+ICチップ読み取り+映像面表示による券面照合(新イ)
写真付きだがICなし(身体障害者手帳、運転経歴証明書、乗員手帳など)券面提示で可提示+取引関係文書を転送不要郵便で送付(新ロ(1))
IC付きだが写真なし(16歳未満の在留カードなど)従前の方式提示+補完手続(新ロ(2))
公的個人認証(JPKI)利用主に非対面向け公的個人認証サービス(JPKI)は対面でも利用可能(ヌ)

これまでは券面の目視確認だけでも一定の要件の下で本人確認ができましたが、今後は券面の偽造への対応力を高めるため、ICチップに格納された情報を活用した確認が求められます。ICチップのない写真付き書類は、提示に加えて、券面に記載された住居宛てに取引関係文書を転送不要郵便等で送付する方法になります(警察庁)。

読み取る項目は、警察庁Q&Aによれば氏名・住居・生年月日・写真が基本で、旅券については氏名・生年月日・写真です。署名用電子証明書の確認までは必要ありません。公的個人認証サービス(JPKI)はヌ方式として存置され、対面でも利用可能です。

誰が対象か:犯収法の特定事業者と対象外業種の整理

対象は犯収法第2条第2項に列挙された特定事業者です。銀行の口座開設窓口に代表される金融機関等(銀行、保険会社、資金移動業者など)、ファイナンスリース事業者、クレジットカード事業者、宅地建物取引業者、宝石・貴金属等取扱事業者(古物商を含む)、郵便物受取サービス業者・電話受付代行業者・電話転送サービス事業者、弁護士・司法書士・行政書士・公認会計士・税理士などの士業が該当します(TMI総合法律事務所)。

重要なのは、eKYCの利用有無を問わず、対面取引を扱うすべての特定事業者が影響を受ける点です。オンラインの本人確認を使っている事業者はシステム改修が必要になりますが、対面の確認方法も同時に改正されるため、eKYCを使っていない事業者も対象から外れません(TMI総合法律事務所)。

一方、レンタカー・カーシェア・自動車販売・整備事業者は犯収法の特定事業者ではありません。これらの業種については、犯収法を根拠にICチップ読み取りが義務化されるわけではない点に留意してください。詳細はICチップ読み取り義務化はレンタカーに波及するかで整理しています。

法人の取引時確認でも対応が必要です。法人の代表者等の本人確認でもICチップの読み取りが必要になります(JAFIC Q&A No.35)。

金融庁の要請と日本郵便の見直しが示す方向性

対面の施行は2027年4月ですが、周辺の制度対応は既に動き始めています。金融庁は2026年10月9日、「現下の情勢を踏まえたサイバーセキュリティ対策の強化と各種取引申込等における対応について」を公表し、金融機関等に対し、本人確認書類の画像送信を受ける方法を廃止してICチップ情報の読み取りに原則一本化する対応を、施行日(2027年4月1日)を待たず可及的速やかに進めるよう求めました(fsa.go.jp)。あわせて、移行までの間は非対面の本人確認で書類や容貌の画像に不自然な点がないか確認を徹底することも求めています。

この要請の背景には、本人確認書類の画像を含む顧客情報の漏えいが相次いだことがあります。要請の中心は非対面ですが、対面の準備を前倒しする判断は事業者側の合理的な経営判断として整合します。

日本郵便も2027年4月1日から「本人限定受取郵便」のサービスを見直します。受取時に提示する本人確認書類をICチップ付き・写真付きの4種類(運転免許証、マイナンバーカード、在留カード、特別永住者証明書)に限定し、特定事項伝達型ではICチップに記録された情報を確認したうえで本人確認を行います。特例型は2027年3月31日で終了します(日本郵便)。郵送による取引関係文書送付の運用を組んでいる事業者は、郵便サービス側の変更も合わせて再設計する必要があります。

店頭で変わる具体的な作業:読み取り、照合、記録、例外対応

店頭の作業は「読む・照らす・残す」。読む、氏名・住居・生年月日・写真、事業者が用意した装置で。照らす、券面・本人の容貌・申込内容、不一致は偽変造の疑い。残す、記録事項は従来どおり、IC読み取りログの保存は任意
IC表示の印刷物は本人確認書類の写しに該当せず、読み取ったIC情報を外部へ送信する必要もありません(警察庁Q&A No.39〜41)。

現場の作業は次のように整理できます。

読み取る項目と券面との照合:ICチップから氏名・住居・生年月日・写真を読み取り、映像面に表示したうえで、同時に受け取った本人確認書類の券面と目視で照合します。ここで顔写真の券面と画面表示が一致しているか、生年月日や住居に食い違いがないかを担当者が確認します。IC表示を印刷したものは、犯収法上の「本人確認書類の写し」には該当しない取扱いとなっています(JAFIC Q&A No.40)。

IC情報の送信は不要:読み取った氏名・住居・生年月日・写真を基幹システム(勘定系など)に送信する必要はありません(JAFIC Q&A No.41)。確認は読み取りと映像面での照合で完結します。取引時確認を実施した日時など確認記録に残す事項は従来と同じで、ICチップ読み取りのログ保存は自主的な取組と位置づけられています(JAFIC Q&A No.39)。

不一致・読めない場合:券面とICチップの内容が一致しないときは、偽造・改ざんの疑いがあると判断し、なりすましの疑いがあれば警察等への通報を検討することになっています(JAFIC Q&A No.25)。読み取り装置の不具合時は、合理的な期間内に読み取りができれば取引時確認を完了できる扱いです(JAFIC Q&A No.18)。

既存顧客の済み確認:施行前に完了している取引時確認は有効です。施行後に、過去の確認済み顧客を一斉にIC読み取りで再確認する必要はありません(JAFIC Q&A No.1)。

マイナ免許証の留意点:2025年3月24日から運用が始まったマイナ免許証は、券面に免許の種類や有効期限が記載されない設計になっています。ICチップから読み取ってはじめて確認できる項目があるため、従来の目視フローのままでは免許情報の把握が難しくなります。

本人確認書類の提示と写し:改正後も対面は本人確認書類の原本の「提示」が原則で、本人確認書類の写しの取扱いは厳格化の流れにあります。免許証のコピー廃止とICチップ読み取りへの切り替え手順にて、現場フローの移行手順を解説しています。

読み取り手段の選択肢:装置、アプリ、決済端末

ICチップを読み取る手法は複数認められており、特定事業者が利用する方式を選べます。

  • 専用のICカードリーダー:PCに接続し、業務システムから券面情報を参照する従来型の構成。
  • デジタル庁の「マイナンバーカード対面確認アプリ」:JAFIC Q&A No.22で読み取り手段の例として挙げられています。
  • 地方公共団体情報システム機構(J-LIS)の「個人番号カード対応版券面事項表示ソフトウェア」:同じくQ&A No.22で例示されている公的な読み取り手段です。
  • 民間企業の読み取りアプリ:JAFIC Q&A No.20〜22で、民間アプリの利用も認められています。
  • 顧客の携帯端末で読み取る場合の注意:JAFIC Q&A No.14⑤は、顧客のスマートフォンのアプリで読み取る方法をそのまま認めてはいません。不正なソフトウェアによるなりすましを防ぐ観点から、特定事業者が準備したスマートフォンで読み取るなど、適切な形で読み取る必要があるとしています。読み取り装置を事業者が提供するものに限り、顧客が用意した装置を認めない取扱いも許容されます(No.15)。
  • 決済端末上の業務アプリ:店頭の決済端末にICチップ読み取り機能を持たせ、受付と連携する構成。

どの手法を選ぶかは、店頭の受付動線、既存システムとの連携要件、顧客の携帯端末に頼らない構成にできるか、スタッフの運用負担、不正利用への備えなど、事業者ごとの実務設計に依存します。受付で実際に何を読み、何と照らし、何を記録するかの手順は対面本人確認でICチップを読み取る手順と確認記録の残し方で、古物営業法と犯収法が重なる買取店のフロー設計は買取店の本人確認を古物営業法と犯収法で両立させる実務設計で詳しく解説しています。実際には複数の手段を組み合わせる企業も想定されます。確認方法の比較観点は店舗の本人確認方法を比較にまとめています。

2026年内に進めたい準備のタイムライン

2026年内に進めたい準備の順番。現状把握、対面の取引と書類の棚卸し、確認済み顧客の整理。手段と手順、装置・アプリの選定とPoC、手順書と記録様式の改訂。研修と移行、暗証番号の案内と例外対応、2027年3月までに定着
施行前に完了した取引時確認は済み確認として有効で、施行後にやり直す必要はありません(警察庁Q&A No.1)。

施行は2027年4月1日ですが、ICチップを搭載した書類を読み取る装置の調達、アプリの選定、業務手順書と記録様式の改訂、現場研修には相応の時間がかかります。早めに取り組むメリットは、施行直前の混乱と現場の負担を抑えられることにあります。以下の順で進めるのが現実的です。

1

現状把握:自社が特定事業者として現在どの取引で取引時確認を行っているかを棚卸しし、対面・非対面の件数、使用している本人確認書類の内訳を整理する。

2

読み取り手段の選定:専用リーダー、公的アプリ、民間アプリ、決済端末連携などから、自社の店頭動線と既存システムに合う方式を選び、PoCで読み取り成功率と所要時間を確認する。

3

業務手順と記録様式の改訂:読み取り項目、照合手順、不一致・読み取り失敗時の対応、記録事項を手順書に落とし込む。

4

現場研修:PINの取り扱い(事業者側で保存しない)、顧客への説明文、例外時のエスカレーション先を全スタッフに展開する。

5

既存顧客の済み確認の整理:施行後に再確認が不要な顧客と、新規取引で改めてIC読み取りを行う顧客を分けて管理する。

携帯電話不正利用防止法の施行規則改正でも、対面の本人確認は2027年4月施行とされており、業界横断でICチップ読み取りへの移行が進む見通しです。

店頭でICチップ読み取りを始めるには(補足例)

ここまでの準備を店頭で具体的に進める支援例として、株式会社amsが提供する業務アプリ「マイナドライブID」を紹介します。これは三井住友カードの決済端末stera(stera terminal standard・stera terminal unit・stera terminal mobile)上で動作するアプリで、来店客がカードを端末にかざし、カスタマーディスプレイのタッチパネルで4桁の暗証番号(PIN)を自分で入力する流れになっています。

このアプリは、マイナ免許証または従来のIC運転免許証のICチップから、氏名・住所・生年月日・免許の種類・有効期限・条件などの免許情報を読み取り、顔写真を端末画面に表示します(カード種別と入力条件で読み取れる範囲は異なります)。顔写真はスタッフが端末画面で来店客本人と見比べる前提の設計です。マイナンバー、暗証番号、ICチップの生データ、標準運用での顔写真画像は基幹システムへ送らないことでデータ最小化を実現する設計で、読み取ったICチップ情報を外部へ送信しなくても確認は完結します(警察庁Q&A No.41と整合)。合意した項目だけをHTTPS POSTで基幹システムへ連携でき、認証はmTLS・OAuth2・HMAC署名から選択できます。

現時点の対応書類は、運転免許証(マイナ免許証・従来のIC運転免許証)、マイナンバーカード(氏名・住所・生年月日・性別の4情報)、在留カード・特別永住者証明書(券面の12桁の番号を入力)で、旅券には対応していません。犯収法の取引時確認に用いる場合、読み取る項目(氏名・住居・生年月日・写真)と券面との照合を自社の確認手順にどう組み込むかは、法務担当・顧問弁護士に確認してください。stera端末向けの本人確認アプリとしての具体的な適用範囲は、業務要件と合わせて個別に設計する必要があります。

導入相談までの手順は次のとおりです。

1

自社が特定事業者としてどの取引で取引時確認を行っているかを整理する。

2

対面で読み取りたい項目と、残す記録様式を決める。

3

stera端末の設置環境と既存システムとの連携要件を確認する。

4

マイナドライブIDのデモ・連携相談をこちらの申し込みフォームから申し込む。

まとめ

2027年4月1日の施行規則改正により、特定事業者が対面で取引時確認を行う際は、ICチップ付きの写真付き本人確認書類について「提示+ICチップ読み取り+券面照合」が原則になります。非対面では画像送信方式が廃止され、ICチップ情報の読み取りへ原則一本化される予定です。金融庁は非対面について施行日を待たない早期の移行を要請しており、日本郵便も本人限定受取郵便をICチップ確認へ切り替える見直しを公表しました。

対面の準備としては、2026年内に自社取引の棚卸し、読み取り手段の選定、業務手順と記録様式の改訂、現場研修の計画までを進めておくと、施行日直前の混乱を避けられます。細部の運用判断は、警察庁JAFICのQ&Aと社内の法務担当・顧問弁護士に確認したうえで固めてください。

FAQ

よくある質問

Q. 2027年4月1日から、対面の本人確認は具体的に何が変わりますか。
ICチップが組み込まれた写真付きの本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証、在留カード、特別永住者証明書、旅券など)は、提示を受けるだけでなく、読み取り装置でICチップ情報を読み取って映像面に表示し、券面と照合することが原則になります。読み取る項目は氏名・住居・生年月日・写真です。
Q. 自社が対象かどうかはどう判断すればよいですか。
犯収法第2条第2項の特定事業者(金融機関等、ファイナンスリース事業者、クレジットカード事業者、宅地建物取引業者、宝石・貴金属等取扱事業者、郵便物受取サービス業者、電話受付代行業者、士業など)が対象です。レンタカー・自動車販売・整備などは特定事業者ではなく、犯収法を根拠にした義務は生じません。
Q. 金融庁の2026年10月9日の要請は対面にも関係しますか。
要請の中心は非対面の本人確認で、画像送信方式の廃止とICチップ読み取りへの一本化を施行日を待たず進めるよう求めるものです。対面への直接の言及はありませんが、装置の選定や手順の改訂には時間がかかるため、対面の準備も2026年内に進めるのが現実的です。
Q. ICチップを読み取れない場合はどうすればよいですか。
読み取り装置の不具合で読めない場合は、合理的な期間内に読み取れば取引時確認を完了できます。券面とICチップ情報が一致しない場合は偽変造の疑いがあり、なりすましの疑いがあれば警察等への通報を検討します。
Q. 確認記録の書き方は変わりますか。
確認記録に残す事項は従来と変わりません。ICチップ読み取りのログを残すのは自主的な取組で、IC表示を印刷したものは本人確認書類の写しには該当しません。読み取ったIC情報をどこかへ送信する必要もありません。