2027年4月1日から、銀行の窓口や不動産会社の店頭、保険の訪問先で行う対面の本人確認は、本人確認書類のICチップを読み取る方法が原則になります。これに合わせて「窓口でもお客様の顔を撮影するのか」「顔認証の装置を入れるべきか」という相談が増えています。非対面のeKYCで容貌の画像を送ってもらう方式が一般的になったため、対面でも同じことが求められると受け止められているためです。
本記事では、犯罪収益移転防止法(犯収法)の施行規則と警察庁のQ&Aを読み、対面の本人確認で法令が求める照合の範囲と、容貌の撮影・顔認証を上乗せする場合の位置づけ、個人情報の扱い、先行している銀行の設計を整理します。
結論:対面に容貌の撮影の義務はなく、求められるのはICチップの読み取りと照合
改正後の施行規則で対面の本人確認に定められた方法は、特定半導体集積回路付き本人確認書類の提示を受けるとともに、ICチップに記録された氏名・住居・生年月日・写真の情報を読み取り装置で読み取って映像面に表示させる、というものです(第6条第1項第1号イ)[e-Gov法令検索]。条文のどこにも、顧客の容貌を撮影する、顔認証で照合する、という文言はありません。
警察庁のQ&Aは、読み取ったICチップの情報と券面の情報を照らし合わせることが必要だとし(No.12)、照合にAIによる自動認証などのシステムを使うかどうかは、関係法令に従って特定事業者が判断するとしています(No.17)[警察庁]。つまり、画面に表示された写真と目の前の本人、券面を職員が見比べれば、法令上の要件は満たします。容貌の撮影や顔認証は、なりすまし対策や証跡づくりのために事業者が選ぶ上乗せの仕組みであり、個人情報の取り扱いと現場の負担が増える選択です。
方式を選ぶうえで重要なポイントは、法令に基づく要件と、事業者が自社のニーズに応じて選ぶ上乗せを分けて考えることです。顔認証への関心が高まっており、今後も顔認証の技術を使った製品やソリューションは増えていくと考えられますが、どれを採用しても土台となる要件は変わりません。
2027年4月から対面の本人確認は何が変わるのか
まず法改正の概要を確認します。犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)は、犯罪による収益の移転防止と、テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約等の的確な実施を目的に、金融機関などの特定事業者に取引時確認や確認記録の保存を求める法律です(法第1条)[e-Gov法令検索]。今回の施行規則の改正案は2025年12月5日から2026年1月3日まで意見募集が行われ、寄せられた質問への回答が警察庁のQ&Aとして公表されています[警察庁]。
改正の背景について、国土交通省は不動産業者向けの資料で、近年、偽造された運転免許証やマイナンバーカード等を利用する詐欺的取引が多発していると説明しています[国土交通省]。従来の「書類を見せてもらう」確認では、精巧に偽造された書類を職員の目視確認だけで見抜くのは難しくなっています。ICチップの情報を読み取って券面と照らし合わせる方式に切り替え、本人確認の制度をより厳格にして不正利用の防止を強化することが、改正の主な狙いです。
現行の施行規則では、対面の本人確認は運転免許証などの写真付き本人確認書類の提示を受ける方法が基本です(現行第6条第1項第1号イ)[e-Gov法令検索]。2026年3月6日に公布された改正命令(令和8年第1号)により、2027年4月1日からは次のように変わります[e-Gov法令検索][警察庁]。
| 提示を受ける書類 | 2027年3月31日まで | 2027年4月1日から |
|---|---|---|
| 写真付きでICチップに氏名・住居・生年月日・写真がある書類(マイナンバーカード、運転免許証、在留カード、特別永住者証明書、旅券など) | 提示を受ける | 提示を受け、ICチップの情報を装置で読み取って画面に表示し、券面と照合する(イ) |
| 写真付きでICチップのない書類(運転経歴証明書、身体障害者手帳など) | 提示を受ける | 提示を受け、住居あてに取引関係文書を転送不要郵便等で送る(ロ(1)) |
| 写真のないICチップ付きの書類(16歳未満の在留カード、1歳未満のマイナンバーカードなど) | 提示と転送不要郵便等 | ICチップの氏名・住居・生年月日を読み取り、住居あてに転送不要郵便等で送る(ロ(2)) |
旅券もICチップに氏名・生年月日・写真が記録されているため対象に含まれますが、住居は記録されていないので、2020年2月4日以降に発行された旅券では現在の住居が記載された別の書類か補完書類で住居を確かめます(Q&A No.9・10)。どの書類を受け付けるかは事業者が決めてよく、すべての書類に対応する義務はありません(No.4)。
ここで読み取る情報は「氏名、住居、生年月日及び写真」で、署名用電子証明書の確認までは不要です(No.11)。写真の照合は、ICチップから読み出した画像と券面、本人の3つを見比べる作業として行います。ICチップの写真は書類や装置によってモノクロで表示されることがあり、券面のカラー写真と見え方が違う場合があることを職員に周知しておく必要があります。
「容貌の画像」が要件になるのは非対面のハ方式
対面と非対面を取り違えやすいのは、改正後も非対面の方法には容貌の画像が残るためです。非対面のハ方式は、特定事業者が提供するソフトウェアで顧客に自分の容貌を撮影させた画像(本人確認用画像情報)の送信を受けるとともに、写真付き本人確認書類のICチップの情報の送信を受ける方法です(第6条第1項第1号ハ)[e-Gov法令検索]。本人確認用画像情報とは、このソフトウェアで撮影させた顧客の容貌の画像を指します。目の前に本人がいない取引で、カードの正当な所持者が操作していることを確かめるために、容貌の画像が使われます。
金融庁が2026年10月9日に金融機関へ出した注意喚起も、非対面の本人確認について「本人確認書類の画像や容貌の画像に不自然な点がないかを改めて確認する」ことと、ICチップ読み取りへの早期移行を求めたもので、対面の窓口に撮影を求める記載はありません[fsa.go.jp]。
非対面では、2027年4月1日から本人確認書類の画像の送信を受ける方法が廃止され、ICチップの情報を使う方法に一本化されていきます[fsa.go.jp]。もう一つの選択肢が、地方公共団体情報システム機構が提供する公的個人認証サービス(JPKI)の署名用電子証明書を使う方法です。オンラインの手続きで使われることが多い方法ですが、警察庁のQ&Aは、新規則第6条第1項第1号ヌに定める公的個人認証による確認を対面で用いることも可能としています(No.26)[警察庁]。対面では、ICチップの写真を照合する方法と、電子証明書で確認する方法を、顧客や手続きに応じて使い分けることができます。
非対面のeKYCでは、ユーザーが自分のスマホで容貌を撮影し、カードをかざす手順が加わるため、手間がかかると感じて申込の途中で離脱する利用者もいます。対面では職員がその場で同時に対応できるので、こうした撮影の手順を追加しなくても本人確認は成り立ちます。
対面では、職員が本人と向き合っているので、容貌の画像を取得して照合させる要件が置かれていません。非対面のeKYCで「容貌の撮影は必須」と覚えた担当者が、対面にも同じ要件があると考えてしまうのが、冒頭の相談が生まれる背景です。
警察庁Q&Aで分かる、対面の照合に求められる範囲
警察庁のQ&Aには、対面の照合をどこまで行うかの境界が具体的に書かれています。主な回答は以下のとおりです[警察庁]。
- 券面との照合は必要(No.12): 条文は「映像面に表示させる方法」としか書いていないが、改正の趣旨は読み取ったICチップの情報と券面の情報を照らし合わせて偽変造によるなりすましを防ぐことなので、照合を行う必要がある。
- 表示の仕方(No.14): 人が見て照合できる形で表示する。読み取り装置とは別の端末の画面に表示してもよい。顧客のスマートフォンではなく、事業者側が用意した端末で読み取る。
- 装置は事業者のものに限定してよい(No.15): 改ざんのリスクがあるので、顧客が持参した装置の利用を認めない取り扱いができる。
- 文字が「●」になる場合(No.16): 券面との一致が合理的な範囲で確認できれば使える。
- 写真照合のシステム化(No.17): AIによる自動認証などの活用は、関係法令に従って事業者が適切に判断する。
- 装置の不具合(No.18): 券面で受け付け、合理的な期間内にICチップを読み取れば取引時確認を完了できる。
- 住所変更後の書類(No.13): ICチップの住所が変更前のままでも、ICチップと券面の旧住所が一致することなどを確かめたうえで、券面の新しい住所で住居を確認できる。
- 代表者や代理人(No.23・35): 法人の代表者等や代理人も、ICチップの読み取りが原則になる。
- 読み取る人と確認する人(No.19): 訪問先で提示を受ける営業担当者と、送られたICチップの情報を確認する本社の担当者が別でもよい。
照合の主体が人でもシステムでもよいこと、そして記録の義務が増えないこと(後述)が、方式を選ぶ出発点になります。具体的な「読む・照らす・残す」の流れは対面本人確認でICチップを読み取る手順に整理しています。
対面の照合に上乗せする3つの型を一覧で比較する
法令の要件を土台にすると、対面の現場で選べる型は3つに分かれます。
| 観点 | ①職員の目視照合だけ | ②容貌を撮影して記録に残す | ③顔認証で自動照合する |
|---|---|---|---|
| 法令上の位置づけ | 第6条第1項第1号イの要件を満たす | 上乗せ(撮影の義務はない) | 上乗せ(照合の手段はNo.17で事業者判断) |
| 偽変造された書類への効果 | ICチップの読み取りと券面照合で検知する | 同左。撮影は書類の真正性とは無関係 | 同左。顔認証は書類の真正性とは無関係 |
| 他人の本物の書類を使うなりすましへの効果 | 職員の目と経験に依存する | 後から画像で検証できる | 照合結果が数値で残り、判断のばらつきが減る |
| 個人情報の扱い | ICチップの情報を保存しなければ新たな取得はない | 容貌の画像を取得・保存する(個人情報) | 顔特徴データを生成する(個人識別符号) |
| 現場の負担と顧客対応 | 最も軽い | 撮影の説明と同意、拒否されたときの代替が要る | 装置・照明・マスクや眼鏡への対応、失敗時の目視への切り替えが要る |
| 記録 | 法定の確認記録のみ | 画像の保存期間と削除の規程が要る | 顔特徴データとログの保存規程が要る |
ここで区別したいのは、2027年の改正が狙っているのは「偽変造された書類」であり、ICチップの読み取りと券面照合で対処する点です。容貌の撮影や顔認証が効くのは、本物の書類を別人が持ち込む場面です。どちらのリスクをどの程度見積もるかで、上乗せの要否が決まります。表の①〜③の違いを一言でいえば、偽変造への効果は同じで、他人の書類によるなりすましへの備えと、個人情報の管理や費用の負担が異なるという点です。ICチップの読み取りでも、他人の本物の書類を使う巧妙ななりすましを完全に防げるわけではありません。
端末の面から見ると、①は決済端末やスマートフォン、業務用ハンディ端末でも実現でき、NFCを搭載したデバイスであれば専用の装置がなくても読み取りを開始できます。一方、②③は撮影用のカメラや顔認証付きの読み取り装置を窓口ごとに置く投資を伴います。拠点数が多い事業者ほど差が大きくなるため、端末の選び方は本人確認のICチップ読み取り端末を比較も参考にしてください。
顔認証を上乗せする前に確かめたい精度と運用の課題
顔認証の技術は向上していますが、照合の精度が高い製品でも、照明の当たり方、マスクや眼鏡、髪型、カメラの性能、窓口の環境などに左右されます。照合の基準になるのは書類に記録された写真で、撮影されたのは書類の発行や更新の時点です。年月がたって容貌が変わった顧客ほど、一致の判定が出にくくなる可能性があります。
そのため、顔認証を導入する場合も、システムが不一致と判定したときに職員の目視確認へ戻す手順は欠かせません。本人なのに不一致と判定された顧客に別の書類を求めるのか、職員の判断で受け付けるのか、他人を本人と誤って判定する場合をどう抑えるのかを、方針として決めておく必要があります。誤判定が発生したときに顧客とのトラブルにならないよう、説明の仕方も決めておきます。警察庁のQ&Aも、AIによる自動認証などのシステムの活用は、関係法令に従って特定事業者が適切に判断するとしています(No.17)[警察庁]。
運用面では、次のような課題を事前に検討します。
- セキュリティと管理体制: 顔特徴データや容貌の画像を保存するなら、暗号化、閲覧できる職員の限定、保存期間と削除の方法、委託先の管理を情報セキュリティの規程に組み込み、安全に管理する体制を整備する。顔認証の結果を勘定系や顧客管理のシステムとAPIで連携する場合は、送る項目を最小限にする
- コスト: 装置の購入と設置、ソフトウェアの開発や導入、保守、通信環境、職員の研修にかかる費用が、拠点数と窓口の数に応じて増える
- 利用者への配慮: 撮影や顔認証に抵抗がある顧客、障害のある顧客、高齢の顧客への説明と、代わりの確認手段を用意する
- 製品の選定: 精度は製品や条件によって異なるため、自社の窓口と同じ環境で動作を試し、照合の信頼性と読み取りにかかる時間を確かめてから選ぶ
高度な顔認証による照合の自動化には、判断のばらつきの軽減というメリットがありますが、受付の時間を大幅に短縮できるとは限らず、現場の手間や費用の増加と両立が難しい場合があります。照合の品質を上げる目的なら、まず職員の目視確認の手順と研修を見直し、それでも課題が残る場面に絞って上乗せを検討するのが現実的です。
容貌の画像と顔認証データは、個人情報としてどう扱うか
②③を選ぶと、犯収法とは別に個人情報保護法の整理が必要になります。日本の個人情報保護法では、特定の個人を識別できる顔画像は、氏名や住所と結びつけていなくても個人情報です。さらに、容貌を電子計算機で処理するために変換した符号(顔特徴データ)は、個人情報保護法施行令第1条第1号ロが定める身体の特徴の一つとして、個人情報保護委員会規則の基準に適合すれば個人識別符号に当たります[e-Gov法令検索]。個人識別符号を含む情報は、それ自体が個人情報です(個人情報保護法第2条第1項・第2項)[e-Gov法令検索]。
個人情報保護委員会のQ&A 1-14は、顔識別機能付きカメラについて、防犯目的であることだけでなく顔識別機能を使っていることまで利用目的として特定し、外観からは分かりにくいので通知・公表が必要だとし、入口や設置場所に運用主体・利用目的・問い合わせ先を掲示することが望ましいとしています[個人情報保護委員会]。窓口で顔認証を使う場合も、本人確認のための撮影であることを顧客に分かる形で示し、取得した画像やデータの保存期間と削除の規程を定める必要があります。
ここで押さえておきたいのは、犯収法の確認記録には容貌の画像を残す規定がないことです。確認記録に記録するのは、本人確認書類の提示を受けた日付と時刻(写しを添付して7年間保存する場合は日付のみ)、確認の方法、書類の名称と記号番号などです(第20条第1項第3号・第17号・第18号)[e-Gov法令検索]。容貌の画像を保存するなら、それは犯収法の義務ではなく事業者の判断による取得なので、利用目的と保存期間を自社で決め、取得しない選択も含めて設計します。
銀行の先行事例に見る、土台と上乗せの切り分け
2027年4月を待たずに、窓口のICチップ読み取りを始めた銀行があります。ここでは2行の先行事例を紹介します。警察庁のチラシも「金融機関等の判断で先行実施あり」と案内しています[警察庁]。
千葉銀行は2026年4月25日から営業店舗の対面取引で、店頭タブレットとICカードリーダーを組み合わせ、本人確認書類のICチップを読み取って真正性と有効期限を確認し、ICチップ内の顔画像と来店者の容貌を照合して本人性を判定する運用を始めました。券面はカメラとOCRで読み取ってICチップの情報と合わせて勘定系システムに連携し、対象書類はマイナンバーカード、運転免許証、在留カード、特別永住者証明書です。共同化施策として他の7行にも順次導入する予定とされています(IT Leaders、2026年4月27日)[IT Leaders]。
千葉興業銀行は2026年3月16日から一部拠点で始め、5月から全店に拡大して、店頭の新規口座開設時などにICカードリーダーでICチップを読み取り、マイナンバーカードの公的個人認証(JPKI)と、ICチップから読み取った情報と申告内容の照合を組み合わせる運用を始めています(IT Leaders、2026年4月2日)[IT Leaders]。
2行に共通するのはICチップの読み取りを土台に置いた点で、上乗せの中身は容貌の照合と公的個人認証に分かれています。顔認証付きのカードリーダーなど、本人確認を支援する幅広い製品も市販されていますが、どの上乗せを選ぶかは各行の判断であり、法令が一つの型を指定しているわけではありません。
業界ごとに見る、上乗せを検討する場面
対面の本人確認でICチップを読み取る改正は、銀行だけのものではありません。業界によって、上乗せを検討する理由も異なります。
- 金融機関: 口座開設の審査の段階で、偽造された身分証が使われる状況への対応が課題になっています。金融庁は2024年8月、警察庁と連名で全国銀行協会などに対し、口座開設時における不正利用の防止と実態把握の強化などを求めました[fsa.go.jp]。銀行口座の不正利用対策を強化している多くの企業では、ICチップの読み取りに容貌の照合や公的個人認証を加える例が出ています。
- 携帯電話の販売・契約: 携帯電話不正利用防止法の施行規則も、2027年4月1日から、店頭の契約時に写真付き書類の提示を受けてICチップの氏名・住居・生年月日・写真を読み取る方法に変わります(第3条第1項第1号イ)[e-Gov法令検索]。総務省は、犯行に使われた携帯電話が、一見して判別できないほど精巧に偽変造された本人確認書類で契約されていたことを背景に挙げています[総務省]。この方法も、店頭で容貌を撮影することは求めていません。
- 不動産会社: 宅建業者の取引時確認の対象は売買とその代理・媒介で、賃貸の仲介は対象外です[連絡協議会]。売買の契約や決済の場では、店頭だけでなく現地で読み取る端末も必要になります。
- 宝石・貴金属の買取: 代金が200万円を超える貴金属等の売買で、代金を現金で支払うものが取引時確認の対象になり(施行令第7条第1項第6号、規則第4条第1項第11号)[e-Gov法令検索]、買取の窓口でもICチップの読み取りが必要になります。
どの業界でも、法令が求める土台はICチップの読み取りと券面との照合で、容貌の撮影や顔認証は各社の判断による上乗せです。
記録に何を残すか:義務の範囲と自主的な証跡
容貌の撮影や顔認証を「記録のため」に入れる前に、法令が求める記録の範囲を確かめます。警察庁のQ&Aによれば、ICチップの情報や読み取り時のログ、券面と一致したことを確認した事実を記録する義務はなく、確認記録の作成方法と記録事項はこれまでと変わりません。自主的な取り組みとして読み取りのログを残すことは可能です(No.39)[警察庁]。
一方で、ICチップの情報を映像面に表示した画面を印刷したものや電子ファイルに変換したものは、本人確認書類の「写し」には当たりません(No.40)。写しを添付しない運用では、提示を受けた日付と時刻を確認記録に記録します。デジタル庁の「マイナンバーカード対面確認アプリ」のように読み取り時刻が履歴に残る仕組みなら、その時刻を記録すればよく、写しの取得は不要ですが、セキュリティコードの記録だけでは書類を特定する事項にならないため、書類の名称や記号番号も記録します(No.42)。読み取ったICチップの情報をどこかへ送信する義務もありません(No.41)。
したがって、容貌の画像や顔認証の結果を保存しなくても、法定の確認記録は成立します。証跡として残すなら、何を・どの期間・誰が閲覧できる形で残すかを、個人情報の規程とあわせて決めておきます。
方式を決める前のチェックリスト
対面の本人確認の方式を決めるときに、順に確かめておきたい項目です。
対象の取引と拠点: 取引時確認が必要な取引を行う窓口・店頭・訪問先など、本人確認のシーンをすべて洗い出し、拠点ごとの件数と担当者を把握する。
受け付ける書類: マイナンバーカードを中心に、受け付ける書類の種類を決める。旅券(パスポート)や写真のないICチップ付き書類をどう扱うか、ICチップのない書類の顧客に転送不要郵便等の郵送の案内をどうするかを決める(No.4・9)。
読み取りと表示の方法: 事業者が用意した端末で読み取り、照合できる大きさで画面に表示する(No.14・15)。読み取れないときの代替手順と、暗証番号が分からない顧客への案内は本人確認で暗証番号が分からないときの対応を参照。
照合の主体: 職員の目視で行うか、顔認証を使うかを決め、顔認証を使うなら失敗時に目視へ切り替えるフローを定める。マスクや眼鏡、車椅子の方、高齢の方への対応も含める。
容貌の撮影の要否: 撮影するなら、本人確認のための撮影であることの表示、同意の取り方、拒否されたときの対応、画像の保存期間と削除方法を決める。
記録: 日付と時刻、書類の名称と記号番号、確認方法を確認記録に残し、顧客情報の登録と迅速に結びつけられる運用にする。読み取りログや画像を残すかは自主的な判断として規程に書く。
暗証番号を設定していないカード: 顔認証マイナンバーカードなど暗証番号を設定していないカードを提示された場合に、使う装置がどの方式で読み取るのかを仕様で確かめておく。マイナンバーカードの読み取り方式は券面事項入力補助で事業者が読み取れる項目で解説しています。
2027年4月より前の実施: 施行前にICチップの読み取りで確認して記録を残した顧客は、施行後に確認し直す必要がない(No.1)。先行して始めるなら、記録の形式も先に整える。
これらの準備を進めるときは、拠点ごとの状況や顧客への影響を見ながら、運用を継続して改善していきます。関連する手順の詳細は、本文で紹介した各記事で解説しています。
読み取りと目視照合を決済端末や業務用端末で行うには
マイナドライブIDは、三井住友カードの決済端末stera(stera terminal standard・stera terminal unit・stera terminal mobile)と、Androidのスマートフォン・業務用ハンディ端末で使える本人確認の業務アプリです。お客様がカードをかざして暗証番号を自分で入力し、ICチップから読み取った記載事項と顔写真を画面に表示して、職員が券面とご本人を見比べる方式をとっています。顔認証は行わず、照合は職員の目視で完結させる設計です。対応する書類は、運転免許証(暗証番号1で記載事項、暗証番号2も入力すると顔写真)、マイナ免許証、マイナンバーカード(4桁の暗証番号で基本4情報、券面の14桁の番号で読むと顔写真も)、在留カード・特別永住者証明書(券面の12桁の番号で記載事項と顔写真、氏名は文字で表示しません)です。旅券には対応していません。
暗証番号の値、ICチップの生データ、標準運用での顔写真画像は基幹システムへ送らず、合意した項目だけを連携します。容貌の撮影を上乗せするかどうかとは独立に、法令の土台となる読み取りと表示を窓口や訪問先に置く用途に向いています。確認記録への残し方や社内規程への組み込みは、貴社の法務担当とご確認ください。導入相談の手順は次の4つです。
対面の取引時確認を行う拠点と、受け付ける本人確認書類を整理する
読み取る項目と画面での照合の手順、記録の残し方を決める
使うstera端末・Android端末と、既存システムとの連携の要否を確認する
マイナドライブIDのデモ・連携相談をこちらの申し込みフォームから申し込む
まとめ:土台は読み取りと照合、撮影と顔認証は目的を決めて上乗せする
対面の本人確認で2027年4月1日から法令が求めるのは、ICチップの情報を読み取って画面に表示し、券面と本人に照らし合わせることです。容貌の撮影は非対面のハ方式の要件であり、対面には撮影や顔認証の義務はありません。上乗せするなら、偽変造とは別のなりすましリスクへの対策として位置づけ、個人情報の利用目的・保存期間・顧客への表示を決めたうえで導入します。先行する銀行も、読み取りを土台にして上乗せの中身を各行で選んでいます。まずは読み取りと目視照合の運用を固め、撮影や顔認証は目的と負担を比べてから決めるのが現実的です。
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