契約の窓口で運転免許証の提示を受け、顔写真と目の前の本人を見比べる。氏名や住所は申込書と同じで、券面にも気になる点は見当たらない。それでも、その免許証が公安委員会から正式に交付されたものかどうかは、券面を見ただけでは確かめきれない場合があります。
偽造免許証は、作った人だけでなく、使った人も重い罪に問われます。一方で、受付の担当者が券面の細部から真偽を見極めるのは簡単ではありません。刑法と道路交通法の条文、警察庁や警視庁などの資料をもとに、問われる罪、悪用される場面、ICチップを使った確かめ方を順に整理します。
結論:偽造も行使も重い罪、見分けるにはICチップと照合
偽造免許証とは、道路交通法にもとづき都道府県公安委員会が交付する運転免許証を、偽って作ったものです[e-Gov法令検索(道路交通法)]。行使の目的で作れば刑法第155条第1項の有印公文書偽造に当たり、刑の重さは1年以上10年以下の拘禁刑です。使えば第158条第1項の偽造公文書行使として偽造と同じ刑になり、だまして金品やサービスを得れば第246条の詐欺(10年以下の拘禁刑)にも問われえます[e-Gov法令検索(刑法)]。
精巧な偽造は、券面を見るだけでは判別しにくくなっています。警視庁は、一見しただけでは判別できない精巧な偽変造免許証が出回っていると説明しています[警視庁]。見分ける手がかりとして確実性が高いのは、ICチップの情報と券面の照合です。2021年3月の警察庁の通達も、券面の記載事項とICチップの記録情報が同じであることの確認をもって、真正性を判定するとしています[警察庁]。
警視庁は、ICチップの記録内容は読み取り装置に暗証番号を入力しないと見られず、身分証明書として使う際など、券面の記載内容の真偽を判定する場合に暗証番号が必要になると説明しています[警視庁]。従来の運転免許証は、暗証番号1で顔写真を除く券面の記載事項を、暗証番号2で本籍と顔写真を読み出す仕組みです[警察庁]。券面とICチップの内容が合わない、読み取れない、本人が暗証番号を知らないといったときは、取引を進めず別の確認手段に切り替えます。警察庁のQ&A(No.25)は、合致しない場合などは偽変造の可能性があるとし、なりすましの疑いがあれば警察等への通報を求めています[警察庁]。
偽造免許証とは
道路交通法は、自動車などを運転しようとする人に公安委員会の運転免許を受けるよう求め(第84条)、免許は運転免許証を交付して行うと定めています(第92条)。ここでいう公安委員会は、都道府県公安委員会です(第4条)[e-Gov法令検索(道路交通法)]。偽造免許証は、この交付を受けていないのに運転免許証に見せかけて作ったもので、本物の免許証の一部を書き換えるのは「変造」と呼ばれます。刑法は、公務所が押印・署名した文書の変造にも偽造と同じ刑を定めており、罪の重さに違いはありません(第155条第2項)[e-Gov法令検索(刑法)]。
大阪府警察によると、ICカード運転免許証は従来の運転免許証にICチップを内蔵したもので、ICチップには券面に記載されている内容と写真と同じ情報が記録されます[大阪府警察]。警察庁の通達では、氏名・住所・生年月日や免許証の番号、免許の種類・条件などの記載事項に加え、券面にない本籍もICチップに記録されるとしています[警察庁]。警視庁は、ICカード免許証は偽変造免許証の作成が極めて困難で不正使用を防止でき、本籍はプライバシー保護のため券面から削除されたと説明しています[警視庁]。記録内容の詳細は免許証のICチップには何が入っている?で整理しています。
マイナンバーカードのICチップに免許の情報を記録する「マイナ免許証」も、令和4年の道路交通法の改正にもとづき、2025年3月24日から全国で始まりました[警察庁]。マイナンバーカードの券面には運転免許に関する事項が記載されないため、免許の種類や有効期間の末日はICチップの情報で確かめます。持ち方は「マイナ免許証のみ」「2枚持ち」「運転免許証のみ」の3つから選べるので、受付では従来の免許証とマイナ免許証のどちらも提示される可能性があります[デジタル庁]。カード自体の偽造についてはマイナンバーカードの偽造の見分け方は?を参考にしてください。
偽造免許証で問われる罪
偽造免許証に関わる主な罪と刑の重さは、次のとおりです(2026年10月時点の刑法)[e-Gov法令検索(刑法)]。
| 行為 | 罪名 | 条文 | 刑の重さ |
|---|---|---|---|
| 行使の目的で免許証を偽造する | 有印公文書偽造 | 刑法第155条第1項 | 1年以上10年以下の拘禁刑 |
| 本物の免許証の一部を書き換える | 有印公文書変造 | 刑法第155条第2項 | 1年以上10年以下の拘禁刑 |
| 偽造・変造した免許証を本物として使う | 偽造公文書行使等 | 刑法第158条第1項 | 偽造・変造と同じ刑(未遂も処罰) |
| 偽造免許証で人をだまし、金品やサービスを得る | 詐欺 | 刑法第246条 | 10年以下の拘禁刑 |
第158条は、偽造された文書を行使した者を、偽造した者と同じ刑で処罰すると定めています。偽造した本人でなくても対象になり、行使の未遂も罰せられます(同条第2項)。詐欺は、金品をだまし取れば第246条第1項、サービスなど財産上の利益を得れば第2項の対象です。
刑の名前は、2025年6月1日に施行された刑法の改正で懲役と禁錮が「拘禁刑」に一本化され、改正前は「懲役」と表記されていました[e-Gov法令検索(刑法)]。個々の事例でどの程度の刑になるかは事情によって異なるため、表は条文に定められた刑の範囲を示したものです。免許を受けていない人が偽造免許証を持って自動車を運転すれば、道路交通法第64条が禁じる無免許運転にも当たり、その罰則は同法第117条の2の2に定められています[e-Gov法令検索(道路交通法)]。
偽造免許証が使われる場面
偽造免許証は、本人確認書類として免許証の提示を受ける手続きで悪用されます。警視庁は、他人名義の運転免許証で銀行口座を開設したり、携帯電話の利用契約を結んだりして、振り込め詐欺などに不正に使われていると説明しています[警視庁]。銀行や携帯電話会社の窓口のように、契約の前に本人確認書類の提示を受ける手続きが悪用の対象になります。実際に、偽造した運転免許証で口座を開設するなどして逮捕される事件も報じられています。
不動産の取引も同じです。国土交通省は2026年6月の不動産業者向けの資料で、偽造された運転免許証やマイナンバーカード等を利用する詐欺的取引が多発していると説明しています[国土交通省]。
車を借りる場面も例外ではありません。愛知県警察は、運転免許証のIC化が検討されたきっかけとして、偽造免許証によるレンタカー借用などの悪用を挙げています[愛知県警察]。レンタカー受付での確認の流れはレンタカー受付で偽造免許証を見抜くための実務手順にまとめています。買取、宿泊、配達など、免許証の提示を受ける業務では、偽造免許証が持ち込まれるリスクを前提に手順を決めておくことが大切です。
券面だけでは見抜きにくい理由
券面を目で見て確かめられることには限りがあります。顔写真で分かるのは、目の前の人が写真の人物かどうかです。警察庁の通達も、本人確認は確認を受ける人の顔と券面の顔写真との照合で行い、真正性(偽変造されていないこと)は券面の記載事項とICチップの記録情報の照合などで確かめると、分けて整理しています[警察庁]。偽造免許証には使う人の顔写真が載っていることもあるため、写真が本人と一致しても、券面が本物である根拠にはなりません。
券面に印刷された文字も同じです。氏名や住所が実在する人のもので、申込内容と一致していても、券面そのものが本物とは限りません。本人確認書類の画像を含む個人情報の漏えいが相次いで報じられており、他人の情報を使ったなりすましにも備える必要があります。免許証のコピーや画像の提出を受けるだけでは、ICチップを確かめられない点にも注意が必要です。
それでも、券面の確認は省けません。実際の受付で見るポイントは、顔写真と本人の顔、生年月日と免許の年月日や有効期間の末日といった記載事項どうしのつじつま、申込内容との一致、住所を変更した人の裏面の記載です。少しでも違和感があれば、担当者だけで判断せず責任者に引き継ぎます。
券面の記載が書き換えられた場合の手がかりになるのが、ICチップです。愛知県警察は、運転免許証が変造されても、記載されているデータとICチップ内のデータは異なり、容易に偽物を使われないと説明しています[愛知県警察]。券面の確認で気づけない偽造や変造を拾うために、次のICチップの照合を重ねます。
ICチップで確かめる手順
取引が成立する前に、ICチップの情報を券面と照らし合わせます。実際の手順は次のとおりです。2027年4月以降に特定事業者が行う確認について、警察庁が改正命令案への意見募集で寄せられた質問に答えたQ&Aに沿っていますが、それ以外の事業者が手順書を作るときにも使えます。
暗証番号は本人に入力してもらう。 従来の運転免許証には、免許の取得や更新の申請の際に本人が決めた4桁の暗証番号が2組あります[愛知県警察]。暗証番号2は本人しか知り得ない番号にするよう案内されているため、入力は本人に依頼し、担当者は番号を聞き取らず、控えもしません。2021年3月の警察庁の通達では、暗証番号1は券面に印字された免許証番号のうち赤い斜線の4桁にすることを原則とし(本人が別の番号を選ぶこともできます)、暗証番号1を正しく入力できることだけで本人と判定する方式は、なりすまし防止の観点から望ましくないとしています[警察庁]。
ICチップの情報を券面と照合する。 画面に表示された氏名・住所・生年月日と顔写真を、券面の記載や目の前の本人と1項目ずつ見比べます。警察庁のQ&Aは、特定事業者の確認では少なくとも氏名・住居・生年月日・写真を読み取り(No.16)、券面と照合するよう求めています(No.12)[警察庁]。従来の運転免許証で顔写真まで表示するには、暗証番号2の入力も必要です。
住所を変更した人は旧住所も確かめる。 住所変更で裏面に新しい住所が記載されても、ICチップの住所は古いままのことがあります。この場合は、ICチップの旧住所と券面に記載された旧住所が一致することを確かめ、現在の住所は券面の記載で確認します(No.13)[警察庁]。
合わない・読めないときは取引を進めない。 券面とICチップの情報が合致しない場合などは偽変造の可能性があり、なりすましの疑いがあれば警察等へ通報します(No.25)[警察庁]。従来の運転免許証は暗証番号を3回続けて間違えるとICチップが読めなくなり、忘れた場合の照会やロックの解除には、本人が免許証を持って警察署などへ行く必要があります[警視庁]。マイナ免許証の数字4桁の暗証番号は、10回連続で間違えるとロックされます[警察庁]。
読み取れないことが、すぐに偽造を意味するわけではありません。暗証番号の誤りや装置の不具合で読めないケースもあり、警察庁のQ&A(No.18)は、装置の不具合で読めない場合は、合理的な期間内に読み取れば取引時確認を完了できるとしています[警察庁]。暗証番号を思い出せない人への案内は、本人確認で暗証番号が分からないときの対応を参考にしてください。受付で偽造の疑いが発覚したときは、担当者だけで判断せず責任者に報告し、通報するかどうかを決めます。
読み取りに使う装置にも注意します。警察庁のQ&Aは、不正なソフトウェアを使ったなりすましを防ぐ観点から、事業者が準備したスマートフォンで読み取るなど、なりすまし防止のための適切な形で読み取るよう求めています(No.14)。顧客が用意した装置の利用を認めない扱いも許容されるとしています(No.15)[警察庁]。お客様が自分の端末に表示した画面を見せるだけで済ませず、受付側の装置で読み取る運用にしておくと安心です。
2027年4月からの対面の本人確認
犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)の施行規則は、2026年3月6日に公布された改正命令で、対面の確認方法が見直されました。改正は2027年4月1日に施行されます[警察庁]。施行後は、特定事業者がICチップ付きの写真付き本人確認書類の提示を受けるとき、ICチップの情報を読み取って画面に表示させる方法が原則になります。警察庁のQ&A(No.5)は、対象の書類としてマイナンバーカード、運転免許証、在留カード、特別永住者証明書、旅券などを挙げています[警察庁]。
埼玉県警察は、2027年4月1日から、金融機関で口座開設などの本人確認書類として運転免許証を使う際は、暗証番号を入力してICチップ情報を読み取る必要があると案内しています。偽造または変造された本人確認書類で開設された預貯金口座などが、特殊詐欺などの犯行やマネー・ロンダリングに悪用されている実態を踏まえたものです。運転免許証のICチップ情報を読み取らせるには、2つの暗証番号の入力が必要です[埼玉県警察]。警察庁の周知用チラシは、金融機関などの判断で2027年4月1日より前に先行して実施する場合があるとしています[警察庁]。
この義務がかかるのは、金融機関、クレジットカード事業者、宅地建物取引業者などの特定事業者が行う取引時確認です[警察庁]。特定事業者でない事業者が同じ手順を取り入れるのは、法律上の義務ではなく、確認の質を上げるための選択です。読み取りに使うアプリは、官公庁のものに限らず民間企業のものも使えるとされています(No.20)[警察庁]。店頭での読み取りから記録までの流れは対面本人確認でICチップを読み取る手順で解説しています。
受付でICチップの照合を始めるには
マイナドライブIDは、三井住友カードの決済端末stera(stera terminal standard・stera terminal unit・stera terminal mobile)と、Androidのスマートフォン・業務用ハンディ端末で動く本人確認の業務アプリです(Android端末は、NFCでICチップを読み取れる機種に限ります)。お客様が運転免許証などをかざし、暗証番号もお客様自身が入力するため(stera端末はお客様側の画面のタッチパネル、Android端末は端末画面のテンキー)、スタッフは暗証番号を聞かず、控えもしません。読み取れるのは、マイナ免許証(4桁の暗証番号で免許情報と顔写真)、従来のIC運転免許証(暗証番号1で本籍を除く記載事項、暗証番号2も入力すると顔写真)のほか、マイナンバーカード(4桁の暗証番号で氏名・住所・生年月日・性別の4情報、券面の14桁の番号で顔写真も。個人番号は読み取りません)と、在留カード・特別永住者証明書(暗証番号の代わりに券面右上の12桁の番号を入力して、在留資格・在留期間などの記載事項と顔写真)です。読み取った情報と顔写真は端末画面に表示され、券面の記載や本人の顔との照合は、担当者が画面を見て行います。
このアプリはデータ最小化の考え方で、暗証番号の値、ICチップの生データ、標準運用での顔写真画像を基幹システムへ送らず、合意した項目だけをHTTPS POSTで連携できます(認証はmTLS・OAuth2・HMAC署名から選択)。読み取ったICチップの情報を外部へ送らなくても端末画面での照合で確認は完結でき、警察庁のQ&A(No.41)の「読み取ったICチップ情報をいずれかへ送信する必要はありません」という回答とも整合します[警察庁]。旅券の読み取りには対応していません。マイナンバーカードは、4桁の暗証番号では氏名・住所・生年月日・性別の4情報、券面の14桁の番号を入力すると顔写真も読み取れます。犯罪収益移転防止法の取引時確認に使う場合、読み取る項目(氏名・住居・生年月日・写真)と券面との照合を自社の確認手順に組み込めるかは、法務担当・顧問弁護士に確認してください。
免許証の提示を受ける手続きと、いまの券面確認の手順、照合が合わないときの報告先を整理する。
読み取りたい項目と、確認記録への反映方法を決める。
使う端末(stera端末、またはAndroidのスマートフォン・業務用ハンディ端末)と既存システムの連携可否を確認する。
マイナドライブIDのデモ・連携相談をこちらの申し込みフォームから申し込む。
まとめ
偽造免許証は、作る行為も使う行為も刑法で重く処罰されますが、精巧なものは券面だけでは見分けにくいのが実情です。券面の確認に、本人が入力する暗証番号でのICチップの読み取りと照合を重ね、合わないときは取引を止める手順を決めておくことが、受付でできる備えになります。
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