玄関のドアが開き、受取人が運転免許証を差し出す。配達員は顔写真と宛名を見比べ、受領の記録を端末に登録して荷物を渡す。本人に限って手渡す配達物では、こうした券面の目視による確認が長く続いてきました。2027年4月1日を境に、この場面の一部は「券面を見る」から「ICチップを読み取り、画面の内容を券面と本人に照らす」へ移っていきます。

ただ、配達員が端末で本人確認書類のICチップを読み取る運用は、店頭とは条件が違います。机も待合スペースもなく、受取人は玄関先に立ったまま暗証番号を入力し、集合住宅の廊下では電波が途切れることもあります。宅配・郵便・通信機器やカードの配送など、受取人本人への手渡しを担う業務の企画・情報システム・現場の担当者に向けて、決めておくべきことを公的機関の資料をもとに整理します。

結論:配達先で先に決める5つのこと

配達先でのICチップ本人確認は、店頭の手順をそのまま持ち出すだけでは回りません。玄関先の制約に合わせて、次の5点を先に決めておくことが運用の前提になります。

1

配達員が携行する読み取り端末(NFCに対応し、画面で照合できるもの)

2

受取人本人に暗証番号を入力してもらう場面の作り方(覗き見や急かしを防ぐ)

3

画面に出た内容を券面と受取人の顔に照らす手順

4

読めない・一致しない・本人不在のときに、持ち戻るか別の受け取り方法へ切り替えるかの判断

5

送り主(差出人)が求める確認記録の要件に合わせた記録の残し方

法令上の要件が直接かかわるのは、犯罪収益移転防止法の特定事業者が取引時確認に配達を使う場面です。それ以外の配達で同じ手順を取り入れるのは、義務ではなく運用品質の選択になります。店頭での基本の流れは店頭でICチップを読み取る基本の手順で解説しているので、以下では玄関先で変わる点に絞ります。

なぜ配達先でICチップの確認が必要になるのか

2027年4月に変わる3つの本人確認。犯収法施行規則、対面はIC読み取りへ、券面との照合まで必要。本人限定受取郵便、書類はIC付き4種に、特定事項伝達型はIC確認。携帯電話の契約、対面もIC読み取りが原則、非対面は2026年4月から
犯収法施行規則の改正と日本郵便の本人限定受取郵便の見直しは2027年4月1日から。携帯電話は総務省の案内による。配送事業者一般に義務が課されたわけではありません。

起点は、犯罪収益移転防止法施行規則の改正(令和8年の共同命令第1号)です。施行日の2027年4月1日以降、ICチップ付きの写真付き本人確認書類による特定事業者の対面の確認(改正後の第6条第1項第1号イ)は、提示を受けるとともに、ICチップの氏名・住居・生年月日・写真の情報を装置で読み取って画面に表示する方法になります(旅券は氏名・生年月日・写真)。警察庁のQ&Aは、読み取った情報と券面を照らし合わせて偽変造によるなりすましを防ぐのが趣旨で、照合まで行う必要があると回答しています(No.12)(警察庁)。

配達にかかわるのは、名あて人本人などに限って交付する郵便やこれに準ずるものを使う確認方法(同号チ)です。この方法は、配達側が特定事業者に代わって住居を確認し、ICチップ付きの写真付き本人確認書類の提示を受けて氏名・住居・生年月日・写真を装置で読み取って画面に表示し、所定の事項を特定事業者に伝える措置がとられている場合に限って使えます(警察庁(改正命令))。

この改正に伴い、日本郵便は2026年9月14日に「本人限定受取郵便のサービスの見直し」を公表しました。2027年4月1日から、特定事項伝達型と基本型の本人確認書類をICチップ付き・写真付きの4種類(運転免許証、マイナンバーカード、在留カード、特別永住者証明書)に限り、パスポートなどは対象外になります。特定事項伝達型では、ICチップに記録された情報が書類と一致することを確認したうえで名あて人本人かを確かめ、運転免許証の読み取りには4桁の暗証番号2組の入力が必要です。基本型は、今後は希望に応じて住所・居所への配達も行うとしています(日本郵便)。公表資料は、確認に使う機器や手順までは示していません。

同じ流れは携帯電話契約にも及んでいます。総務省は、令和9年4月以降、携帯電話やSIMの契約時にICチップの読み取りが原則必須になり、オンラインの非対面契約では令和8年4月1日から既に原則必須だと案内しています。本人確認書類の写真をアップロードする方式のeKYCや、コピーの郵送といった本人確認方法は原則として廃止されます(総務省)。携帯電話不正利用防止法の本人確認には、署名用電子証明書を使う公的個人認証サービス(JPKI)による方法も定められています(デジタル庁)。

背景にあるのは、偽造された書類による不正です。警視庁は、精巧な偽変造免許証が他人名義の銀行口座の開設や携帯電話の契約を通じて詐欺に悪用されてきたと説明し、ICカード免許証は偽変造が極めて困難で不正利用の防止につながるとしています(警視庁)。

ただし、配送事業者一般にICチップの読み取りが義務づけられたわけではなく、配達側の手順は、チの方法に使われるサービスかどうかや送り主との契約で決まります。改正の全体像は犯収法改正で2027年4月から対面の本人確認はどう変わるかで整理しています。

店頭と玄関先では何が違うか

店頭との違いと、配達側で決めておくことを表にまとめます。

項目店頭配達先決めておくこと
端末据え置きのICカードリーダーを置ける持ち歩ける大きさに限られるNFC対応の携行端末、充電と予備機
通信店舗の回線が安定地下や建物の奥で弱いことがある照合を画面で完結させ、送信する項目を分ける
時間待合スペースで待てる立ったまま短時間で終える事前通知で書類と暗証番号を準備してもらう
暗証番号の入力画面の向きを固定できる家族や通行人の目がある端末を受取人に渡し、配達員は画面から目を離す
本人不在・代理人本人が来店する家族や同居人が応対することがある代理受領の可否は送り主・サービスの規定に従う
天候・照明照明が一定夜間や雨天、逆光で見にくい画面の明るさと手元の照明

読み取りの物理的な条件も変わります。デジタル庁は、スマートフォンでICチップを読み取るときの注意として、機種によってかざす位置が違うこと、完了まで5秒以上かかる場合があること、終わるまでカードをぴったり当て続けること、金属の机の上では読み取れない場合があることを挙げています(デジタル庁)。金属製の宅配ボックスの上で読ませない、と手順書に書いておくと迷いません。

暗証番号の入力は、玄関先でいちばん気を使う場面です。急かされた受取人が番号を声に出したり、配達員に入力を頼んだりすると、番号を第三者が知ることになります。配達員は番号を聞かない・代わりに打たない・控えないことを原則とし、入力中は端末を受取人に渡して一歩下がる、という所作まで決めておくと、受取人も安心して入力できます。

配達員が携行する端末の選び方

端末に求められるのは、NFCでICチップを読み取り、照合できる大きさで画面に表示できることです。警察庁Q&Aは、表示の面積や色に特段の定めはないとしつつ券面と照合できる形での表示を求め、読み取る装置とは別の端末に表示してもよいと回答しています(No.14)。

受取人のスマートフォンで読み取ってもらう手法について、警察庁Q&Aは、不正なソフトウェアによるなりすましを防ぐ観点から、特定事業者が準備したスマートフォンで読み取るなど、適切な形で読み取る必要があると回答しています(No.14)。顧客側の装置が改ざんされるリスクを踏まえ、読み取る装置を事業者が提供するものに限る扱いも許容されるとしています(No.15)(警察庁)。受取人の機種やアプリに成否を左右されない点も、配達では実務上の理由になります。なお、日本郵便の見直しにある、スマートフォンに搭載されたマイナンバーカードの情報の送信を受ける方法は、カードを配達側の端末で読む方法とは別の仕組みで、受取人が事前にアプリのインストールなどの設定をしておく必要があります(日本郵便)。

アプリは省庁が提供するものに限らず民間企業のツールも利用でき(No.20)、券面との照合で偽変造を防ぐという趣旨に照らして必要な要素を満たすと合理的に認められることが求められます(No.21)(警察庁)。

配達で使っている業務端末にNFCが搭載されていれば、それを活用して読み取りの機能を加え、読み取り専用の機器を持たせずに1台で済ませる運用も実現できます。カードを当てる位置は機種で違うため、配備する機種をそろえ、紛失に備えたセキュリティ設定も選定の条件に入れます。

玄関先での確認の流れ

玄関先での確認は3段階。提示と入力、書類を見せてもらう、暗証番号は本人が入力。読み取りと照合、券面と宛名を見比べる、顔写真を本人と照らす。記録と引き渡し、記録を確定してから、確認前には渡さない
警察庁Q&Aは、読み取ったICチップ情報と券面の照合まで行う必要があるとしています(No.12)。従来のIC運転免許証は暗証番号が2組あり、写真まで読むには両方を入力します。

手順は、受取人が迷わない順に短く区切ります。

1

端末で宛名と配達物の種別を確認し、本人確認が必要な配達物だと伝える

2

送り主やサービスが認める本人確認書類の提示を求める

3

端末を受取人に渡し、受取人本人が暗証番号を入力する

4

カードを端末に当て、読み取りが終わるまで動かさないでもらう

5

画面の氏名・住所・生年月日を券面と宛名に、顔写真を受取人の顔に照らす

6

確認の記録を確定してから配達物を引き渡す

暗証番号は書類ごとに違います。従来のIC運転免許証は4桁の暗証番号が2組(暗証番号1・暗証番号2)あり、写真まで読み取る運用では2組とも入力してもらいます。マイナンバーカードの券面事項入力補助用暗証番号は交付時に設定した4桁の数字で、個人番号や4情報(氏名・住所・生年月日・性別)を読み取るためのものとされています(マイナンバーカード総合サイト)。写真まで読み取るかは、使うアプリの仕様で確かめます。免許証のICチップに何が記録されているかは運転免許証のICチップに記録された情報にまとめています。

見落としやすいのが住所です。住所変更後の運転免許証や在留カードでは、裏面に新しい住居が書かれていても、ICチップは旧住所のままのことがあります。警察庁Q&Aは、その場合、ICチップの旧住居と券面に記載された旧住居の一致を確かめるなどして住居を確認するとしています(No.13)(警察庁)。宛名が新住所でも、ICチップの住所だけで不一致と判断しないよう、照合の手順に一行加えておきます。

読めない・暗証番号が分からない・一致しないとき

暗証番号を思い出せない受取人に、思いつく番号を次々に試してもらうのは避けます。従来の運転免許証は3回続けて間違えるとICチップが読めなくなり(警視庁)、マイナ免許証は10回続けて間違えるとデータを確認できなくなります(police.pref.chiba.jp)。マイナンバーカードの券面事項入力補助用暗証番号も、3回連続で間違えるとロックされます(マイナポータル)。

解除や照会は、免許証なら本人が免許証を持参して運転免許センターや警察署などに申し出る必要があり、代理は認められないと案内されています(police.pref.chiba.jp)。マイナンバーカードは市区町村で再設定の手続きが必要です(マイナンバーカード総合サイト)。受取人に窓口へ出向く負担を負わせないよう、残りの回数に余裕があるうちに打ち切って持ち戻るのが基本で、当て直しを決めた回数試しても読めないときも同じです。

持ち戻った後の選択肢は、再配達、窓口での受け取り、送り主への返送などで、どれを選べるかは送り主とサービスの規定によります。本人不在で家族が応対した場合の扱いも、同じ規定に従います。店頭の取引時確認では、装置の不具合で読めなくても合理的な期間内に読み取れば確認を完了できるとされていますが(No.18)、配達では先に渡すと取り戻せないため、確認が終わるまで渡さないことを原則に置きます。

不一致は、読めない場合と扱いを分けます。警察庁Q&Aは、券面情報とICチップ情報が合致しない場合などは書類の偽変造が考えられ、なりすましの疑いがあれば警察等へ通報するよう求めています(No.25)(警察庁)。配達員はその場で問い詰めず、渡さずに持ち戻って責任者へ報告する流れにしておくと、配達員の身の安全も守れます。

事前案内の重要性も見逃せません。不在票や配達予告で、使える書類と、運転免許証なら暗証番号が2組必要なことを伝えておけば、玄関先で番号を思い出す時間が減ります。案内文の作り方は運転免許証の暗証番号の案内方法も参考になります。

記録に残すこと、残さないこと

記録に残すもの・残さないもの。伝える事項、確認した者の氏名など、提示の日時と書類の番号。残さないもの、暗証番号の値、券面の撮影画像。送信の要否、IC情報の送信は不要、照合は画面で完結できる
伝える事項は改正後の犯収法施行規則第6条第1項第1号チと第20条第1項による。読み取ったIC情報の送信が不要な点は警察庁Q&A No.41による。

送り主が特定事業者で、チの方法に使われる配達では、配達側から特定事業者へ伝える事項が規則で決まっています(警察庁(改正命令))。確認を行った者の氏名など、本人確認書類の提示を受けた日付と時刻、書類の名称・記号番号など書類を特定する事項です(e-Gov法令検索)。警察庁Q&Aは、伝達する事項は改正後も変わらないと回答しています(No.24)(警察庁)。

特定事業者の確認記録でも、作り方は大きくは変わりません。警察庁Q&Aでは、ICチップ情報や読み取り時のログ、一致を確認したことまで記録する必要はなく、読み取りの証跡を残すのは自主的な取組として可能とされています(No.39)。読み取った画面を印刷したものは本人確認書類の写しに当たらず、提示を受けた日付と時刻の記録、または日付の記録と写しの保管が引き続き必要です(No.40)。営業担当者が社用スマートフォンに入れたデジタル庁の対面確認アプリで訪問先のマイナンバーカードを読む例では、提示と読み取りの時刻は同一と考えられるので、その時刻を確認記録に記載すれば写しの取得は不要と回答しています(No.42)。読み取ったICチップ情報をどこかへ送信する必要もありません(No.41)(警察庁)。

残さないものも決めておきます。暗証番号は記録せず、券面をカメラで撮影して保存する運用も記録の要件には必要ありません。本人確認書類の画像を含む個人情報の漏えいが相次いで報じられていることを考えても、顔写真の画像や読み取った生データを端末や送信先に残さない設計が無難です。特定事業者以外の送り主では記録の項目は取り決め次第ですが、「誰が、いつ、どの書類で確認したか」を基本形にしておくと運用が膨らみません。

携行端末でICチップの本人確認を始めるには

マイナドライブIDは、三井住友カードの決済端末stera(stera terminal standard・stera terminal unit・stera terminal mobile)と、NFCに対応したAndroid端末(業務用のハンディ端末やスマートフォン)で動く本人確認の業務アプリで、Android端末なら配達員が持ち運んで玄関先で使えます。受取人がカードを端末にかざし、暗証番号は受取人自身が入力します(stera端末はお客様側の画面のタッチパネル、Android端末は端末画面のテンキー)。配達員は暗証番号を聞かず、控えません。読み取れるのは、マイナ免許証(4桁の暗証番号で免許情報と顔写真)、従来のIC運転免許証(暗証番号1で本籍を除く記載事項、暗証番号2も入力すると顔写真)、マイナンバーカード(券面事項入力補助用の4桁の暗証番号で氏名・住所・生年月日・性別の4情報。個人番号は読み取らない)です。顔写真は端末の画面に表示され、配達員が受取人の顔や券面と見比べられます。

このアプリはデータ最小化を前提にしており、暗証番号の値、ICチップの生データ、標準運用での顔写真画像は基幹システムへ送りません。合意した項目だけをHTTPS POSTで基幹システムへ連携でき、認証はmTLS・OAuth2・HMAC署名から選べます。読み取ったICチップの情報を外部へ送信しなくても端末画面での照合で確認を完結でき、警察庁Q&Aの「読み取ったIC情報をどこかへ送信する必要はない」という整理(No.41)とも整合します。在留カード・特別永住者証明書は券面の12桁の番号を入力して読み取り、旅券には対応していません。マイナンバーカードは、4桁の暗証番号では氏名・住所・生年月日・性別の4情報、券面の14桁の番号を入力すると顔写真も読み取れます。犯罪収益移転防止法の取引時確認に使う場合は、読み取る項目(氏名・住居・生年月日・写真)と券面との照合を自社の確認手順に組み込めるかは、法務担当・顧問弁護士に確認してください。導入相談までの流れは次の4つです。

1

どの配達物で、誰が、どの書類で本人確認を行うかと、送り主に返す記録の要件を整理する。

2

読み取りたい項目と、記録への反映方法を決める。

3

使う端末(stera端末、またはNFCに対応したAndroid端末)と既存システムの連携可否を確認する。

4

マイナドライブIDのデモ・連携相談をこちらの申し込みフォームから申し込む。

まとめ:施行までに配達現場で決めておくこと

配達先でのICチップ読み取りは、端末を導入すれば始まるものではありません。受取人が安心して暗証番号を入力できる所作、画面と券面・顔・宛名を照らす順番、読めないときに渡さず持ち戻る判断、送り主に返す記録の項目を、2027年4月1日より前に現場と送り主の双方ですり合わせておくことが、利用者にも配達員にも無理のない移行につながります。

FAQ

よくある質問

Q. 配達先でICチップを読み取る本人確認は義務ですか。
配送事業者一般に義務が課されたわけではありません。法令上の要件は犯罪収益移転防止法の特定事業者の取引時確認に対するもので、本人限定受取郵便などを使う確認方法では、配達側でICチップの読み取りと特定事業者への伝達の措置がとられている必要があります。
Q. 受取人のスマートフォンで読み取ってもらってもよいですか。
警察庁Q&Aは、不正なソフトウェアによるなりすましを防ぐ観点から、特定事業者が準備したスマートフォンで読み取るなど、適切な形で読み取る必要があるとしています。読み取る装置を事業者が提供するものに限る扱いも許容されています。
Q. 運転免許証のICチップを読むには暗証番号がいくつ必要ですか。
従来のIC運転免許証は4桁の暗証番号が2組あり、写真まで読み取るには2組とも入力してもらいます。3回続けて間違えると読めなくなり、解除は本人が免許証を持参して運転免許センターや警察署などで行います。
Q. 読み取れないときや内容が一致しないときはどうしますか。
推測で入力を続けさせず、配達物を持ち戻って再配達や窓口での受け取りなどに切り替えます。券面とICチップ情報が一致しない場合は偽変造の疑いがあるため渡さず、なりすましの疑いがあれば警察等へ通報します。
Q. 読み取ったICチップの情報は送信や保存が必要ですか。
警察庁Q&Aは、読み取ったICチップ情報をどこかへ送信する必要はないとしています。特定事業者の確認記録では、提示を受けた日付と時刻などを残し、暗証番号は記録しません。