国土交通省が、レンタカー事業者やカーシェア事業者に対し、保有する個人情報の管理状況を点検するよう業界団体を通じて要請したと報じられています。本記事は、レンタカー店舗の受付・情報システム・法務の担当者を対象に、自社の個人情報の点検と改善の進め方、特に運転免許証のコピーや画像データの扱いをどう見直すべきかを、個人情報保護委員会のガイドラインの枠組みで整理します。あわせて、店頭でマイナ免許証をstera terminal(三井住友カードの決済端末)のICチップ読み取りで扱う場合の実務上の留意点にも触れます。
結論を先に示すと、レンタカー事業者が個人情報管理の点検でやるべきことは3つです。第1に、自社が保有する個人情報、特に運転免許証のコピー・画像・スキャンデータを棚卸しし、保存場所と保存期間を可視化すること。第2に、個人情報保護委員会のガイドラインが求める組織的・人的・物理的・技術的の4つの安全管理措置に沿って、現状のセキュリティ対策を書き出し、ギャップを洗い出すこと。第3に、漏えいが起きたときの個人情報保護委員会への報告と本人通知の手順を文書化し、従業員が迷わず動ける状態にしておくことです。
国土交通省がレンタカー業界団体に要請した「個人情報管理の点検」とは
本人確認書類の画像を含む個人情報の漏えいが相次いで報じられるなか、国土交通省は2026年10月1日付の文書で全国レンタカー協会(カーシェア事業者も加盟)に情報漏えい対策の点検を要請し、10月30日までに取り組み状況を報告するよう求めたと報じられています(2026年10月8日時点)。
業界団体の案内でも、利用者の運転免許証の画像など重要性の高い個人情報が大規模に漏洩することは、利用者の不安を引き起こしレンタカー事業の信頼を揺るがすおそれがあると指摘され、取り扱う個人情報の漏洩等を防止するための安全管理措置が万全であるかどうかを改めて確認するよう呼びかけられています [福岡県レンタカー協会]。
レンタカー・カーシェア・建機レンタルといった運転免許証を扱う事業者は、他社の事故を対岸の火事とせず、自社の個人情報の取り扱いを点検する必要があります。要請文書の個別項目は公表資料では確認できないため、本記事のチェック項目は「事業者として確認しておきたい点」として整理しています。
点検の土台になる「安全管理措置」の4分類
個人情報保護法に基づく安全管理措置は、個人情報保護委員会のガイドラインで4つの観点から整理されています。「組織的・人的・物理的・技術的」の観点ごとに講じなければならない項目と手法例が示されています [個人情報保護委員会]。[cao.go.jp]
- 組織的安全管理措置:責任者の設置、規程類の整備、取扱状況の点検
- 人的安全管理措置:従業員への教育、非開示契約
- 物理的安全管理措置:保管区域の管理、機器・媒体の盗難防止、廃棄
- 技術的安全管理措置:アクセス制御、認証、不正アクセス対策、通信経路の保護
技術的安全管理措置としては、適切なアクセス制御、正当なアクセス権を有する者の識別と認証、不正アクセス等による被害の防止のための仕組みの導入と適切な運用、通信経路における情報漏えい等を防止する措置などが示されています [cao.go.jp]。[cao.go.jp]
レンタカー事業者が自社の点検を進めるときは、この4分類を軸にチェックリストを作ると、情報システム部門と現場、法務の認識を揃えやすくなります。
自社点検のチェックリスト:事業者として確認しておきたい項目
国の要請文書の点検項目そのものは公表資料では確認できていないため、ここでは一般的な安全管理措置の枠組みに沿って、レンタカー・カーシェア事業者が自社で点検しておきたい項目を整理します。
1. 個人情報の棚卸し
まず「どこに何があるか」を書き出すのが出発点です。
- 貸渡簿、免許証コピー、スキャン画像、Web予約時のアップロード画像、受付タブレットの一時保存領域
- 予約システム・会員管理システム・基幹システムの個人情報項目(氏名・住所・電話番号・メールアドレスなど)
- 退会・契約終了後に残っているデータ
免許証コピーや画像の保存は、本人確認・貸渡簿の記載のために必要な範囲に限定し、不要なものは残さない方針を明確にします。貸渡簿の記載内容や2年間の保存に関する詳細は、別記事「免許証コピーの管理と貸渡簿の実務」で整理しています。
2. 保存期間と削除
- 保存期間を目的ごとに明文化する
- 期間経過後の削除手順(物理媒体の裁断、電子データの消去、クラウドストレージの削除)を定める
- 退会・解約後のデータ保持ルールを決める(退会者の個人情報の保存期間)
3. アクセス権限とログ
- 免許証画像や会員情報へのアクセス権を、役割に応じて最小化する
- 管理者権限と一般権限を分ける
- 誰がいつどのデータへアクセスしたか、操作履歴のログを取得し、定期的に監視する
4. ネットワークと端末のセキュリティ対策
- 業務ネットワークにファイアウォールを設置し、外部からの不正な通信を遮断する
- OS・アプリケーション・ソフトウェアの更新プログラム(パッチ)を定期的に適用する
- マルウェア対策ソフトウェアを導入し、定義ファイルを最新に保つ
- 受付タブレットや店舗PCに強度のあるパスワードポリシーを設定する
- 多要素認証の導入で認証を強化する
- VPNやクラウドサービスへのアクセスを限定し、公開範囲を見直す
5. 委託先の管理
- クラウド事業者、BPO、Web制作、保守運用など外部委託先の情報セキュリティ水準を確認する
- 委託契約に安全管理措置の遵守義務、再委託や第三者提供の制限、インシデント報告の条項を含める
- 委託先の内部の管理体制を定期的にチェックする
6. 従業員教育
人的対策は、どんなツールを入れても省けません。
- 入社時と年次の従業員教育(情報セキュリティ研修)
- フィッシングメールへの意識向上訓練
- 免許証画像の取り扱いルール、持ち出し禁止、SNS投稿禁止の周知
7. 漏えい時の報告・通知の手順
令和4年4月1日から、個人データの漏えい等が発生し、個人の権利利益を害するおそれがあるときは、個人情報保護委員会への報告及び本人への通知が必要となっています [個人情報保護委員会]。[個人情報保護委員会] (2026-10-08時点)
本人への通知は、事態の状況に応じて速やかに、概要、個人データの項目、原因、二次被害やそのおそれなどの内容を、郵送、電子メールなどのわかりやすい方法で行う必要があります。本人への通知が困難な場合は、ホームページ等での公表や問い合わせ窓口の設置などの代替措置を講じることも可能とされています [BUSINESS LAWYERS]。[BUSINESS LAWYERS]
社内では、発覚から誰にどの順で連絡するか、原因の調査を誰が担うか、委員会への速報と確報、本人通知の雛形を事前に用意しておきます。漏えい発生後の再発防止策の全体像は別記事「本人確認書類の漏洩の再発防止策」で整理しています。
技術的対策:レンタカー店舗で見直したいポイント
技術的安全管理措置を点検するときに、現場で手を付けやすい順に並べると次のようになります。
ネットワーク境界の見直し:ファイアウォールの設定、不要ポートの閉塞、公開セグメントと内部セグメントの分離
認証の強化:パスワードの文字数と使い回し禁止、重要システムの多要素認証、初期パスワードの変更、長期未使用アカウントの停止
パッチ適用:OS、ブラウザ、業務アプリケーション、受付端末のソフトウェアを定期的に更新
端末管理:店舗PC・タブレットの資産台帳、暗号化、紛失時のリモートロック
ログの取得と監視:会員情報・免許証画像にアクセスしたログを一定期間保存し、異常検知の仕組みで監視
バックアップ:ランサムウェア対策として、オフラインまたは書き換え不能なバックアップを確保
これらは「導入して終わり」ではなく、年に1回以上の定期的な見直しが必要です。中小規模の事業者であっても、個人情報保護委員会のガイドラインに沿った最低限の対策は求められます。
受付業務そのものを見直す:なぜ「紙と画像」が増えるのか
技術的対策と並行して、受付業務そのものを見直すと、保有する個人情報を減らせます。
従来のレンタカー受付では、運転免許証をコピー機で複写したり、タブレットのカメラで画像を撮って予約システムにアップロードする運用が一般的です。この結果、店舗や本部に免許証の画像が大量に蓄積され、流出したときの被害範囲が大きくなります。
一方、免許証にはICチップが搭載されており、必要な記載事項をチップから直接読み取ることができます。従来のIC免許証には2組の4桁暗証番号があり、暗証番号1で券面の記載事項を、暗証番号2で顔写真と本籍を読み出す仕組みです。チップに記録されている項目は別記事で整理しています [運転免許証のICチップに記録された情報]。
2025年3月24日から、マイナンバーカードに運転免許証の機能を追加する「マイナ免許証」の運用が始まっています [Impress Watch]。[Impress Watch] マイナ免許証は、券面には免許に関する情報は一切印刷されないため、見た目はマイナンバーカードと差がありません [police.pref.wakayama.lg.jp]。[police.pref.wakayama.lg.jp] マイナ免許証には、マイナ免許証の番号、免許の年月日及び有効期間の末日、免許の種類、免許の条件に係る事項、顔写真などがICチップに記録され、マイナンバーカードの券面に免許に関する事項は記載されません [警察庁]。[警察庁]
つまり、マイナ免許証では「券面を見るだけでは免許の種類も有効期限もわからない」ため、ICチップを読み取る仕組みが店頭に必要になります。コピーや画像で代替しようとすると、確認漏れや追加の個人情報保有を招きます。なお、マイナ免許証は運転免許の制度であり、医療機関で使うマイナ保険証とは別の制度です。マイナンバー12桁の読み取りが必要になるわけでもありません。
店頭でICチップ読み取りを始めるには
受付でICチップから必要項目だけを読み取る運用に切り替えると、保有する個人情報を減らしつつ本人確認の精度を上げられます。stera terminalの上で動く業務アプリとして提供されているマイナドライブIDは、この用途に向けた選択肢の1つです。
このアプリでは、お客様がstera terminalにカードをかざし、カスタマーディスプレイ上の入力画面で4桁の暗証番号(PIN)をご自身で入力します。従業員が暗証番号を聞き取ったり紙に書き写したりしない設計で、人的なリスクを下げられます。ICチップからは免許の種類、有効期限、条件、顔写真などを読み取り、顔写真は端末上で本人と見比べられます。従来のIC運転免許証も暗証番号1で記載事項を読み取れるため、マイナ免許証への切替途中の利用者にも対応できます。
データ最小化の観点では、マイナンバー12桁、暗証番号(PIN)の値、14桁の補助入力値、ICチップのAPDUの生データ、未加工のカードバイナリ、標準運用での顔写真画像は基幹システムへ送らない設計です。合意した項目だけをHTTPS POSTで予約・基幹システムへ連携でき、認証はmTLS・OAuth2・HMAC署名から選択できます。送信ログは監視と監査のために取得します。
ただし、このアプリは貸渡可否の法的判断を代替するものではなく、すべての受付例外を自動解決するものでもありません。免許証コピーが残っている既存データの削除や、委託先の管理、従業員教育といった組織的・人的対策とセットで運用する必要があります。導入実績や効果数値は本記事では扱いません。
導入相談までの手順
自社の本人確認業務と、免許証コピー・画像の保管状況を整理する
読み取りたい項目(氏名・住所・生年月日・免許の種類・有効期限・条件など)を決める
stera terminalの設置環境と、連携したい予約・基幹システムの受け入れ仕様を確認する
マイナドライブIDのデモまたは連携相談を申し込む
FAQ





